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 ここは、きせる製造直売…というよりは、おそらく、日本で最後の煙管職人の仕事場であり、たまたまそこでも買い求められる、というシチュエーションである。
 ずいぶん昔に“山と渓谷社”発行の、『歩く地図の本』の特集記事で見かけ、その後とある関西ローカル番組で紹介されたことがきっかけでここのいかにも職人肌のご主人に会いたくて、わざわざ訊ね尋ね探してまで行った店。

 上は2009年、下は1997年に初めてお伺いした時の写真。その時からしてセンセーショナルだった。
 喫煙の習慣のない筆者にとって、喫煙具の最たるものである“煙管(きせる)”は、実物を見るのさえ初めてだったのである。実はこれ以降、3回たずねているのだが、記事に出ておられたご主人は、何かと所用で出かけておられたりで、3回ともお逢いできなかった。まるで“三顧の礼”である。

 だが、留守を守っておられた奥様が「せっかく来てくれはったのにすんまへんどんなあ」と、その関西ローカル番組の取材時の裏話やら、煙管の制作工程、さらにはご主人の昔話や普段のことなど、かえって貴重なお話を伺えた。

 喫煙経験のない私がいろいろと教えていただきつつ求めた長短、二本の煙管は今も宝物である。
 あまりイイ写真ではないので判りにくいが、煙管の基本形は自然な竹のベージュ色の上になんともいえないまだら模様がついている“羅宇(らう)”に真鍮製の“雁首(がんくび)”と“吸い口”がはめこんであるというシンプルなもの。


 生命とも言える羅宇はよく乾かした細竹を漆の液にひたすようにして“コーティング”してあるのだが、これがなんと、素手でもむようにして漆の液を何度も何度もカラメルのだそうだから驚く。
 そしてこの煙管本体には独特のまだら模様がついている。これはある種の海草を使って付けてゆくのだそうで、備前焼の“火襷(ひだすき)”模様と同様、偶然的なものなので同じものは二本とこの世にない。
 ちなみにその海草は“企業秘密”だとか。

 しかも吸い口と雁首も、ひとつひとつご主人が一枚の真鍮板を工作台の上でひたすらに叩いて叩いて、このふっくらした形に仕上げてゆくので、これまたすべて微妙に異なる。逆に言うと、これによって生まれる個性が、選ぶときの楽しみにもなるのだ。
 いにしえ、煙管や煙草盆がどこの家にもあったような頃なら、こうした紋様にさまざまな“相”を見取ったり、偶然の“表情”を楽しんだに違いない。


 そして、これらを生み出してきた作業台がものすごい。
 もともとは、極太の丸太を輪切りにし、叩き出しのための溝が彫られたものだったらしいが、あまりにも年季が入っている上に真っ黒になっているので、どこが溝なのか一見しただけでは気がつかなかったほどである。
 入り口を入るとそのまま正面はのれんがかかっていて居住区に通じ、右側には山のように積み上げられた煙管の材料、そして左が年季の入った作業道具が所狭しと並んでいる上がり框(かまち)兼作業場である。

(写真が極端に少ない上に小さくて申し訳ない。この記事は2001年にリリースしたものを2010年に加筆再編集したものだが、2001年当時はブロードバンドはなく、写真を入れているだけでも重たいと敬遠される時代だったためと、店に訪れて話を伺った頃はまさかこんな記事を世界へ向けて発信しようなどとは考えもしなかったのだ。)

 さらにこうべをめぐらせてすりガラスも懐かしい窓に目をやると、大きな“書”が目に入った。思わず私は「あっこれは!」と大声を出してしまった。
 というのもこの書、マルチタレントの越前屋俵太氏が“俵 越山(たわら えつざん)”の名で腕自慢の職人(しかもマイナー)をたずね歩いては、彼が受けた感銘をぶっとい筆で書にして残して行くという番組で、ここを紹介したときに残していったものなのである。
 しかもなんと。ちょうど私が訪れる半時間前に「番組収録のついでに寄った」と越前屋俵太氏が来られていたそうである。……じつに惜しい!
 ほら、もう一度、最初の店先の写真をごらんあれ。向かって左の窓に裏返しで映っているのがそれである。
 墨痕淋漓(ぼっこんりんり)、勢いと味のある文字で“いっぷく”と書されているのが判って頂けるだろう。勢い余って、一カ所だけ紙がやぶれていたが、それもまた一興である。


 さらに、眼福に預かった。せっかくだからぜひ一管求めようと考えたのはいいけれど、もとよりキセルの善し悪しなど解らない。あるのは好みと勘だけだ。

 どの煙管にしようかとさんざん迷っていたときに「これはつい昨日できあがったばっかりのもんどっけどな」と奥様が棚の上の方から下ろして見せてくださったものは美しい紅色の、しかも2尺(66cm)もある煙管だった。島原の花魁(おいらん)からの注文品だというそれは、歌舞伎や時代劇でしかお目にかかれないシロモノである。

 やたらに長いわけは、気に入った客に煙草を吸い付けた煙管を渡すのに便利なようにである。
 花魁ともなれば、豪奢な着物を何枚も着込んでいるため、身動きがしにくいかららしいが、とにかく美しい。もちろん、雁首も吸い口も上等の銀製である。

 ただし奥様の話では、煙草そのものは真鍮の煙管の方が美味しいのだそうである。げんに羅宇まで無垢の真鍮製という煙管も手にとって見せていただいた。長さは短いものの、かなり重い!これなら“いっぷく”するにしても絶対に片手はふさがる。なにかしながら喫煙するイマドキの紙巻きタバコでは絶対にありえない風情である。あくまで煙草タイムはブレイクタイムなのだ。

傷んだらしく、2009年には残念ながらもう掲げておられなかった、フツーではない古さの看板

 実際の吸い方も教えていただいた。喫煙歴の長い人でも、煙管の扱い方はもちろん、吸い方を知っている人はすくないであろう。機会があればぜひお試しいただきたいが、とにかくたった3口ほどの喫煙のために少なくとも2分、馴れても1分の準備が必要である。

 まず、煙草入れから煙草と煙管を取り出す。やおら刻みたばこを適宣をつまみだし、雁首に詰める。これはある種のコツが要る。なぜなら煙管用の刻み煙草は、例えるなら水分のないとろろ昆布みたいな見栄えで、パッと見は刻まれた繊維を同じ方向にして箱の中にぎっしり詰まっているものから、一回分の適量をつまみ出すだけでもなかなか上手くいかない。
 さらに、意外にパサパサしているので、雁首に詰めるにもうまく丸めることさえできない。
 そうこうしているうちに繊維が千切れてきて粉々になってしまう。これは後々にマズい事になる。紙巻きと違い、キセルとは単純に“管(くだ)”なので、吸い込めば粉になったものは直接口の中へ、ヘタしたらノドへ、肺へと飛び込むのである。しかもそのコナ、火がついているわけだ。煙でむせるどころの騒ぎでは済まない。

 四苦八苦しつつ、なんとか雁首に刻み煙草をセットできたとしよう。
 これでやっと準備完了。そして、そっと火を付ける。乾いた干し草みたいなものなので、着火はスムーズだ。あわてず急がずゆったりと吸う。あわてると火の粉どころか、火の玉本体が羅宇を通って舌をヂュウと直撃するのである。で、わずかに三口ほど楽しむと、アッサリ燃え尽きる。
 あとは燃えかすを火鉢などにそっとおとす。よく時代劇や落語などで、火鉢のヘリにカンと打ち付けるシーンがあるが、あれでは煙管も火鉢も傷む。

 左手に右手でポン、と羅宇をひとあてする感じである。で、あとはきちんと雁首やラウを掃除する。放って置いてもすぐには問題ないが、フィルターなどないから、何度か使ううちにじきにヤニが溜まってくる。これはパイプと同じだ。
 とにかく手間がかかる。めんどくさい。でもこの手間を楽しむようでなければブレイクタイムの意味がないのだ。
 昔の人はなにごとも根気を持ってし、ブレイクですら手間を楽しんだ。

 見習いたいものである。かくして私は古式ゆかしい本当の喫煙という楽しみを得た。これぞ、イマドキ奨励されているスローライフである。


 ところで。ぶっちゃけた話、筆者は非喫煙者…というよりも、嫌煙者である。
 だが、タバコの煙が嫌いと言うよりは、他人を気遣うことのできない、“暴煙家”連中の存在と、そのマナーのなさが許せないのである。しかし、昔からパイプやキセルには興味があった。葉巻もである。嫌いなのは紙巻き煙草のもつ、無粋さなのだ。
 喫煙はコロンブスたちがアメリカ・インディアンたちの文化を梅毒と共に世界に広めたのだが、強力な習慣性を伴うこの合法的麻薬は、同時に多様で素晴らしい精神文化と芸術的工芸品を生み出した。そのことを鑑みて、実際の魅力や奥深さを知りもせずに、真っ向から喫煙を否定するのは、せっかくこの世に生まれておきながらもったいない、と思って調べ始めたのがきっかけだ。

 今も筆者は習慣になっていないし、おそらくならないが、喫煙具と煙草文化は勉強するだけの値打ちがあったと思う。
 年に何度と吸うことすらない。だが、このキセルに煙草を詰め、文字通り“いっぷく”煙をくゆらす時、たしかに馥郁と拡がる香りと充実感は素敵だと思える。
 逆に、天のくだされものである酒を無駄にがぶ飲みする行為と同じで、そうした高い文化性と、煙草の生産者、そして喫煙具を創り出してきた職人の真心を踏みにじって、麻薬そのままの吸い方しかできず、くだらない喫煙中毒に成り下がる輩だけは、やはり許せないのである。

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