実際の吸い方も教えていただいた。喫煙歴の長い人でも、煙管の扱い方はもちろん、吸い方を知っている人はすくないであろう。機会があればぜひお試しいただきたいが、とにかくたった3口ほどの喫煙のために少なくとも2分、馴れても1分の準備が必要である。
まず、煙草入れから煙草と煙管を取り出す。やおら刻みたばこを適宣をつまみだし、雁首に詰める。これはある種のコツが要る。なぜなら煙管用の刻み煙草は、例えるなら水分のないとろろ昆布みたいな見栄えで、パッと見は刻まれた繊維を同じ方向にして箱の中にぎっしり詰まっているものから、一回分の適量をつまみ出すだけでもなかなか上手くいかない。
さらに、意外にパサパサしているので、雁首に詰めるにもうまく丸めることさえできない。
そうこうしているうちに繊維が千切れてきて粉々になってしまう。これは後々にマズい事になる。紙巻きと違い、キセルとは単純に“管(くだ)”なので、吸い込めば粉になったものは直接口の中へ、ヘタしたらノドへ、肺へと飛び込むのである。しかもそのコナ、火がついているわけだ。煙でむせるどころの騒ぎでは済まない。
四苦八苦しつつ、なんとか雁首に刻み煙草をセットできたとしよう。
これでやっと準備完了。そして、そっと火を付ける。乾いた干し草みたいなものなので、着火はスムーズだ。あわてず急がずゆったりと吸う。あわてると火の粉どころか、火の玉本体が羅宇を通って舌をヂュウと直撃するのである。で、わずかに三口ほど楽しむと、アッサリ燃え尽きる。
あとは燃えかすを火鉢などにそっとおとす。よく時代劇や落語などで、火鉢のヘリにカンと打ち付けるシーンがあるが、あれでは煙管も火鉢も傷む。
左手に右手でポン、と羅宇をひとあてする感じである。で、あとはきちんと雁首やラウを掃除する。放って置いてもすぐには問題ないが、フィルターなどないから、何度か使ううちにじきにヤニが溜まってくる。これはパイプと同じだ。
とにかく手間がかかる。めんどくさい。でもこの手間を楽しむようでなければブレイクタイムの意味がないのだ。
昔の人はなにごとも根気を持ってし、ブレイクですら手間を楽しんだ。
見習いたいものである。かくして私は古式ゆかしい本当の喫煙という楽しみを得た。これぞ、イマドキ奨励されているスローライフである。