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あぶり餅
“いち和”→

 

 皆さんは味噌はお好きだろうか。ことに上質の糀(こうじ)から生まれる白味噌は京料理の風味には欠かせないものである。今宮神社の境内には、沿道を挟んで創業1000年になろうという“かざりや”と700ウン十年になる“いち和”の二軒のあぶり餅屋がある。あぶり餅屋といっても、京都でここだけ、つまり世界でここだけの名代である。

 割烹着もまぶしいおばちゃんorおばあちゃんが大人の人差し指くらいに丸めた甘みのない黄粉餅を15個、先端を熊手状にこまかく割った竹串にたんねんにこねつけ、これをフイゴがわりの扇風機で真っ赤にいこった(カッカと燃える炭火の様子を表現する京都弁)炭火の上でたんねんに軽く焦げ目がつくまで香ばしく焼いたものを白味噌ベースのタレをつけて小皿に出してくれるものである。
 かつて私が学生だった頃は実にマイナーな存在で、いついってもまるで鏡でも置いてあるかのようによく似た向かい合わせの二軒はいかにも“近所の婦人会のおばちゃん&お婆ちゃん”がなかばボランティアで営業されている、実にのんびりしたたたずまいが嬉しい“茶店”だった。
 しかし喜んでいいのか悲しむべきか、あるライターの女性が有名女性雑誌にエッセイを載せるや、この静かな天国はまるで伊勢参りの団体客を処理する旅館の様相を呈し、沿道に単に見物目当ての観光客がタクシーでのりつけるほど有名になってしまった。
 結構は立派なものでもともとちょっとした規模の店ではあったが、かつては広い旧家の上がりかまちの延長を店先にしていた程度だったので、真冬も真夏も吹きっさらしに近いフツーの縁側だったのが、ずいぶん人も雇ってあっちこっち修理した箇所がやたらとピカピカになっていてやや興ざめたものであった。
 しかしこれもうまくタイミングをずらしてゆくと、かつてのあののんびりした雰囲気を味わいながら香ばしくて甘い、あの味わいに出逢えるのである。


 もちろん、今も餅を焼いてくれるのは“おばちゃんorおばあちゃん”である。店の一部にアルミサッシが入ろうが、沿道にアスファルトが張られようがおばちゃん達はやはり“おばちゃん達”なのである。
 実は炭火の熱は無茶苦茶熱い筈なのに、彼女たちは実に手早く餅を次々と焼いてゆく。この“おばちゃんorおばあちゃん”は当然700年も生きていないはずなので、何度も何度も人が入れ替わっていうる筈だが、何度食べに行っても「はて、このあいだもこの人だったろうか?」と思うほど、おばちゃん達はその雰囲気を変えていない。そう、私がはじめてこの素朴な味わいのファンになった、25年前から。
 きっと服装こそ違えども、千年近く前の創業当時からこういった“おばちゃん”達が変わらずに餅を焼いていたんだろう。ミレニアムも新世紀もどこ吹く風の、京都の本当のすごさはこういう所にあるのかも知れない。
“かざりや”↑

 ちなみに私は高校時代のあぶり餅デビュー以来、いち和ばっかりでしか食べたことがなかったが、何度か食べ比べてみると餅の食感、味噌だれの舌触りなどで微妙に味わいが異なることが判った。
 くだらない食べ比べ番組的ネタではないのでどっちがどう、などという優劣を述べる気はないが、たしかに好みによって『いち和派』と『かざりや派』になる可能性はあるだろう。

 みなさんも、味わいの微妙な違いを踏まえた上であぶり餅をチョイスするゼイタクも味わってみては?


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