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にしきいちば
 言わずと知れた“京の台所”であるが、それほど有名なのに、実際は大きな荷物でも持っていようものなら行き交うことすら困難なほどの巾3メートル程度の狭い道を挟んで東西300メートルほどの商店街である。

 その細長い商店街に京都の日常食文化のほとんどが見て取れる。地方から来た人にしてみれば突然変異種かと思うような独特なフォルムの京野菜の数々、伝統と職人技に裏打ちされた京湯葉や生麩、よくぞひとつのジャンルでここまででかい店が構えられるな、と感心するほど立派な漬物屋に佃煮屋など、見ているだけで楽しい。(あれほど混雑しなければもっと楽しいと思うのだが)

 人混みが嫌いな筆者だがここだけは別である。なぜなら野菜ひとつをとっても、人参葉やムカゴなどあまり大阪でも売っていない食材が割安で手にはいるからである。
 筆者の好物“すぐき”をはじめ、水茄子や季節ごとにその到来を告げる素材を活かした漬物もそうだし、佃煮でも季節ごとに異なるその凝縮された味覚は同じだ。

 
 お気に入りの味を肴に晩酌を一献傾ける時のことを思い描いて品物を選んでいるときなどは、池波正太郎先生でなくとも、なんともいえず心が弾むものである。

 京都生まれの加工食品のひとつに、そのもっちり感がたまらない生麩(なまふ)もある。そもそも麩屋町通(ふやちょうとおり)という通りがこの錦市場と交差しているくらいである。当然生麩の専門店も多数揃っているし、売っている麩の種類もバラエティに富んでいる。甘味を押さえた餡をつつんだ“麩まんじゅう”もそのひとつ。なまもの扱いなので日持ちがしない上に人気があるから、夕方に市場に訪れたのではなかなか手に入らないが、もしご存じないなら一度は味わっていただきたい。

 おなじ理由で手に入りにくいものだが、生湯葉にすこしだけワサビ醤油をつけて口に含んだときの幸福感といったら例えようがない。まさに筆者が日本人に生まれてよかったと思う瞬間である。生湯葉はほかに口に入れただけでほろほろと崩れ、良質の大豆ならではの甘みが広がる“一番搾り”状態の“汲み上げ湯葉”や、反対に少し歯ごたえのある“湯葉豆腐”なども贅沢な一品だ。
 魚屋さんにも珍しいものがある。他の地方の人にとっては珍しいかもしれないものに“鱧(はも)の蒲焼”がある。これはもう京都の夏の味覚、それも祇園祭には欠かせないアイテムである。そのほか、ドジョウをすぐに料理できるように開いて売ってたり、琵琶湖で採れたての稚鮎にモロコにゴリにアマゴといった琵琶湖ならではの川魚も並んでいる。
 

 あと、夏に訪れた方におすすめしたいのが『ほうじ茶ソフト』と『七味ソフト』。どちらもソフトクリームの看板(!?)が目立つのでご自分で発見されたい。行列が目印になる“豆乳ドーナツ”のお店の『豆乳ソフト』も狙い目。
 左の写真がその『ほうじ茶ソフト』のお店だが、手作りというか、ほうじ茶色にカスタマイズされたPOPがなんとも味わい深いし、実は焼きいもも売っていたりする漬け物のお店なのである。

 発見と言えば、どこのガイドブックにも書いていないネタをひとつ。錦市場と交わる数多い通りとの交差点にきたら必ず上を見上げていただきたい。
 ただし、人通りが多いので通行するひとに邪魔にならないように気をつけて。ほら、何がある?

 ───そう、ステンドグラス。しかも柄がちょっと普通じゃない。アタマをぐるっと巡らせてみると、こんな調子の柄が大勢の客でにぎわう錦市場を見守っているのだ。


 さらに妙なものがもうひとつある。この錦市場の東の端を抜け、若者やおみやげ探しに躍起になっている修学旅行生でごったがえす寺町京極通りにかかったら、おもむろに見上げていただきたい。
 天満宮は神社であるから鳥居がそこに立っている。しかし、近くによって上を見るとあら不思議。アーケードに邪魔されていて見えなかった鳥居の両端は参道の左右に建つ建物に突き刺さっていることに気づく。
 その先端がどうなっているかは、建物の片方はレストランなのでお食事をして確かめられてはいかが?
 あきれるなり感心するなりして、さらに東へもうひと筋、新京極通りを横切ったらあるのが、地元の人だけにとどまらず多くの信仰を集めているのが錦天満宮である。
 天満宮である以上祀られているのは菅原道真であるが、ここは写真をご覧のように入口には京の老舗から歯医者さんまで、さまざまな奉納提灯があって立地上学問というよりは商売繁盛の神様といった趣である。

 おまけに商店街に面していて、アーケードのテントがかぶっているせいか、筆者は妙にこの神社にはインドアなイメージすらある。たくさんの提灯のせいですっかり隠れている門のような雰囲気の鳥居(こちらはどこにも食い込んではいないが)をくぐると、出迎えてくれるのは天満宮でお馴染みのキャラクターである牛。
 ひっきりなしに訪れる参拝客がなでてゆくので牛の頭や背中は磨かれてピッカピカだ。
 
 狭くて人の行き来もままならない小さな商店街は、世界的に有名な観光都市一番の市場の名に恥じないワンダーランドである。ぜひ何度も往復することでその楽しさを味わっていただきたい。

■錦市場公式サイトへのリンク(相互リンクに感謝!)