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 『仁和寺の御室桜』───その名はずいぶん昔から聴いていた。仁和寺は訪れているが、建物にあまり興味を持たない筆者には縁遠く、まして塔頭めぐりをしない以上、大寺院はまず眼中に入らない。

 この年、天候と休日の都合でどうしてもソメイヨシノの盛りには出掛けられなかった。
 それでも諦めきれず、どうしても桜が見たかった。もちろん、せっかくだから未体験のところを探した。それが『御室桜』である。
 が、実はどんな桜か、まったく想像さえもしていなかった…いや、あれほど京都の風土に惚れ込み、このコンテンツを作り始めてからというもの、常に“まだ行った事のない京都のどこか”まして桜に関しては毎年必死に“新ネタ”を探し続けていたにもかかわらず、この桜に関してはあえて避けていた……というのが本音である。

 かの精密電子機器メーカー・オムロンはここが発祥の地であるために名付けられた…とのトリビアから、逆にこの地の名を知った人もおられるかも知れない。

 しかしそんな由来とは裏腹に、最寄り駅である『京福電鉄嵐山線・御室仁和寺駅』はじつにひなびた、ローカル色たっぷりの無人駅舎が実に良い雰囲気を漂わせている。
 今回は写真を挙げていないが、昔の外から観た駅舎はもっと自然に古びた木造ならではの渋い味わいがあった。しかしいまは見た目だけ昔っぽさだけ残して、駅舎は数年前にリニューアルしたらしく、どこか違和感があった。

 仁和寺は駅から歩くこと数分もたたぬうちに、唐突に立派な大寺院らしい山門が現れるほど近い。
 他の大寺院もそうだが、隆盛を誇った最盛期にはきっと駅のある所も境内の一部だったのだろう。

 山門から中へ進み入ると、それまで歩いてきた小じんまりした街並みがウソのように広大な境内が開ける。あまりのギャップにちょっと戸惑うほどだ。

 ここにすでに小さめの『御室桜』が数本、植えられていることを、しつらえられている名札で知った。

 奥の有料版“桜苑”にあるものより随分小さい事は後で知る事になるが、それでもご覧のように立派である。
 まず、パッと見で花の色や全体の形状がかなり特徴的だな、と感じた。桜ではあるが、どちらかというとアンズに近い。八重とまではいかないが、はなびら一枚々々が幅広のためか、二重(ふたえ)になりかけの印象である。
 筆者はそのとき初めて『御室桜』が一本の桜の固有名詞などではなく、ここを発祥またはメッカとするひとつの『品種』なのだと知った次第だ。

 まず目を見張ったのは、鈴なりに咲く花が目の前にある、その背の低さである。
 ある程度の大きさになって、枝の重みによって上の方から人の目線にまで下りてきたものは何度も観てきたが、地面から普通に枝を張り“繁って”いながら、横へ横へと枝を張るタイプはなるほど、他ではあまり見た事がない。

 そして色。

 もちろん桜色と呼ばれるように、ごくうすいピンク色をしているのだが、萼片(がくへん)が茶色に近い濃いえんじ色のせいか、枝が黒々としているせいか、むしろ“白さ”が際立つように思える。

 それどころか、白にわずかに墨を流したかのような錯覚さえしてしまう。

 もちろん、ご覧いただいているように、こうして全体を見れば白どころか濃いピンク色である。
 だがそれはおそらく、離れて観た時には萼片のえんじ色が花の合間から見え隠れして、まるで印刷物における網点のように作用するからかも知れない。

 離れればピンクが際立ち、近寄れば白がきわだつ。

 何とも不思議な魅力を持った桜である。

 背が低いと書いたが、これも錯覚で、実際には3m級の堂々たる高さなのだが、枝が綺麗な放射状に拡がり、真横から見ればまるで扇のような角度で開いているためにこじんまりして見えるのである。
 果たして剪定によってそう“仕立てて”あるのか、自然にそうなる性質なのかは判らないが、京都洛中洛外に無数に咲く桜の中でもこのスタイルは割と特異な部類であるのは間違いない。

 桜といえば思い浮かべるソメイヨシノが若々しい振袖のような華やかさを誇るとすれば、御室桜は少し大人の落ち着いた色香を誇る訪問着といったところか。

 圧倒するほど咲き誇っているのに、艶やかさや派手さでため息を誘うのでなく、見つめてるだけでなんとなく心がおだやかに落ち着き、やがてじわりと美しさが染み入ってくる───御室桜とは、そんな桜である。

 世間が「ああ、今年の桜もお仕舞いか」と少しセンチな気分になった頃に、八重桜と共に盛りを迎える開花期も、観光シーズンならではのパニック的な人出を嫌う筆者向きと言える。

 仁和寺そのものは元々有名だし、そこにあるという“御室桜”もずっと気になっていた。
 しかし桜に関しては、年にただ一度しか出逢う機会を得られないとなると、少しでも、一本でも多くの桜を観ようというコンセプトで毎年コース取りを考える筆者の場合、どうしても御室を含む洛西方面はなかなか考慮に入らない。

 実を言うと、勝手に『御室桜』と呼ばれる、でっかい枝垂桜みたいなのがで〜んとあるんやろな、と想像していた。

 まして御室桜は開花期が八重桜に近く、“桜リレー”をするには他のスポットとも少々連携が取り辛いのである。たった一本の名物桜のためだけに太秦方面に向かう気がしなかった。

 そんなわけで、これまでも名前だけ知っていて気にはなっていたが、調べる事もしないままでいまに至った。
 何事もそうだが、食わず嫌い、先入観だけで物事を考えては損をする、という例である。

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