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きんしまさむね/ほりのきねんかん |
堺町通二条上ル(さかいまちどうりにじょうあがる)と聞いてもよほど京都フリークでないとピンと来ないかも知れない。簡単に説明すると、御所の南面中央にある“堺町御門(さかいまちごもん)”からまっすぐ南に下ったところにそれはある。
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閑静な住宅地といった雰囲気の通りで、ゆきかう自動車もそれほどでもない。むしろなんでこんな所に酒造業者の記念館が?といぶかしむほどにフツーな落ちつきを見せている。
記念館の方に伺った話によると、堺町通りはもともと造り酒屋が多くあったところだったが、やはり水質の問題が原因で今では(といってもそれは十年二十年などという近年の話ではない)ほとんどが伏見に移転してしまったのだそうだ。
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じつはここ堀野記念館の敷地内には“桃の井”という名水が今も毎分300リットルもこんこんと湧き出ている井戸がある。キンシ正宗だけが最後まで残っていられたのはこのおかげだったが、さすがに敷地内の蔵や醸造設備では手狭になったのと、交通の便などの諸事情からやがて伏見へと本拠を移したのだそうである。
トラック輸送が当たり前の今日では伏見の方が不便なようにも思うが、江戸時代から明治の頃は船が運搬の主力だったことから伏見には運搬のための水路が多く設けられていたのである。
実はこの堀野記念館、つい96年まではキンシ正宗の社長さん(旦那さんといった方がピンと来るが)の居宅だったのだ。といっても、はるかな昔は造り酒屋そのものであり、家の造りも丁稚のエリア、番頭さんのエリア、そして旦那さんや女将さんなどの“家の人”のエリアに分かれている。
建物そのものの贅沢で凝りまくった作りや、さまざまなイワクゆえんに関しては係員さんの説明をしっかり聞いていただく楽しみにしてもらうとして、ここではTOM流よそ見の楽しみを紹介したい。
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筆者は初夏から夏にかけての“ぶら旅スポット”として、ここをおおいにオススメする。
理由はふたつある。
まずひとつは、夏の暑さに渇いたノドで、ぜひともくだんの“桃の井”の水のうまさを全身全霊で味わっていただきたいからである。ひとくちすすれば、“毎分300リットル”が「げえっ、なんてもったいない!ああ、なんでペットボトルを持ってこなかったのか」と地団駄を踏むこと請け合いだからだ。(ちなみに係員さんにそう白状したら、「それだけのために来られては困りますが、お持ち戴くのは構いませんよ」とのこと。
強欲にならず、自分が今日一夜限りのお茶や水割りに楽しむ為くらいの量なら分けてくださるものと解釈した。これを読まれて記念館に出向かれる方は、かならず係の方にひとこと断り、また他の客の邪魔にならないよう、あくまで紳士・淑女のつつましさをもって対処されたい。
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そしてもう一つ。
あいにく、この桃の井で醸した酒はもう造ってないが、桃井の水を使って敷地内で醸している地ビールならあるのである。
その名も『かるおす』。「軽いですよ」という意味であって、化学物質の名前ではない。
じつは『かるおす』、ビールではなくエールで、その名の通り口当たりが柔らかい。実は『かるおす』よりもスタウトに近い味わいのもう一種があるのだが名前を失念してしまった(確認のためにまた飲みに行かねばならない)。この素晴らしく旨いふたつのビールは、記念館内に設けられたバーで飲める。
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バーテンダーというよりは、杜氏さんとお呼びした方がしっくりくる頑固一徹風のマスターが守っているこのバー、キンシ正宗の古いラベルやらポスターの飾られたなんとも懐かしくてレトロムード満点なのだ。
このバーが河原町や木屋町にあれば絶対大盛況間違いないのだが、ここにあること自体がこの“ぶら旅”に載る所以なのかも知れない。(あいにく写真はない。あつかましく撮影してしまうと、せっかくのムードが壊れてしまう気がしたからだ。と、いうことでお願いしてせしめてきたコースターを代わりに載せておく。)
さてビールのアテであるが、ここは断然“京のおつけもの”を奨める。
そこの頭の堅い自称ビール党の方。異議を唱えるなかれ。かならずあなたは筆者に感謝するはずである。
酒造記念館おきまりの大吟醸などの試飲もできるし、気にいれば市販よりもかなりリーズナブルな値段で入手できる。おみやげというか、ひとひねりしたアイテムとしてはお酒(酒精)を使った化粧水とか、日本酒を染み込ませたカステラ(美味!)もある。あと、若いカポーには手描きでこしらえたラベルを300ミリリットル瓶に貼ったオリジナル記念酒なんかも作らせてくれる。ちょっとした寄り道にもなかなか粋である。
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▼堀野記念館周辺の地図はこちらから▼
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