『ぶら旅』トップページへはまたはこちらから→ ■■■/*TOMZONE-S SHOWメインブログはこちら→■■■

見出しタイトル
たつみばし〜たつみだいみょうじんかいわい
 京都の夏は暑い。夏の暑いのはあたりまえだろうとおっしゃる方は、まだ“京都の夏”をご存じない方である。
 夏の暑さと言えば、照りつける南国の太陽か、もしくは蒸し暑い熱帯夜を連想されると思う。しかし京都の夏はひと味違う。古来よりその為の形容詞が用意されている。
『油照り(あぶらでり)』がそれである。

 聴くからにダラダラと脂汗を流す様子を思い浮かべてしまうその状態を具体的に説明すると、天からは焼き付けんばかりに太陽が照りつけ、地面からはジリジリと輻射熱に炙られ、加えて高い湿気が空中にいつまでも留まってじんわりと蒸しあげるという、性能のいいオーブンレンジさながらの徹底した状態が“京の夏”である。

 さて、そんな環境の都市だからこそ、今のように冷房設備のない1200年前のいにしえより“涼感”を取り入れる文化にかけてはより敏感で貪欲に培われてきた。


 自然の熱対流によって換気を促す家屋の構造や、夕暮れ時に道や庭石に打ち水をすることでさらにその効果を高める習慣、はたまた実際には気分だけの問題かも知れないが、手水鉢へ少量の水を導いてそのチョロチョロとひびく水音を楽しんだり、わずかな風にもそよぐ柳を一列・等間隔にお行儀よく植えることで一種のオブジェとして楽しんだりというようなことはずいぶん昔からおこなわれてきたことらしい。

 ここ巽橋は流れる白川に咲く春の桜もすばらしいが、風にそよぐ柳の緑が実によく似合うと思う。油照りの夏にサラサラと流れる白川、その上に張り出す葉桜の織りなす影が川沿いの店先に天然の絵を描く。
 そんな雰囲気が京都の生活感を映し出すのにもってこいなためか、旅行番組では清水や南禅寺と並んでかならずといって登場する。またそれというのも、すぐそばには芸事の神様とあがめられる『辰巳大明神』があり、南に下がれば四条通りを隔てて祇園があり、足元に流れる白川を西の下流へ少したどれば鴨川に注ぎ、さらに越えると河原町ということもあって舞妓さんや芸妓さんがフツーにかよう道筋にあるからだ。(ちなみにさらに上流へはるかにたどれば哲学の道に至る。)
 ただし、本来彼女たちの“出勤時間”は観光客が盛んに往来する時間帯とはほとんどかぶらないため、昼間にここらで見かける舞妓さんはたいていが貸衣装の観光客である。たしかに一瞬目立つので、その場の空気がパッと賑やかになるが、本物とはオーラが違うのですぐに見分けがつくはずだ。


 さて、本物の方の舞妓さん達がひいきにするお店のひとつに手打ちうどんの『萬樹(まんき)』がある。最近はマスコミに取り上げられたせいか、シーズンには行列までできてしまうようになったが、本来の〜んびりとした実にマイペースなお店である。
 というのは、このお店では客にうちたてのうどんが持つ、小麦粉本来の味と香りを楽しんでいただくというのが大前提で、その為に注文を受けてからはじめて粉を打つのである。だからものすごく待たされる。さらにこざっぱりとした店内は十人も入らないほど小さい(失礼!)。

 そして小麦粉という、そば粉よりもはるかにデリケートな風味を保つ素材を活かすために、おそらくこの店は日本…すなわち世界一薄味のだし汁で食べさせるのである。おそらく関東の人でなくとも初めてコレを味わう人は絶対に驚く。
 しかしこれがいかにものすごい技かに気付くとこれにはうならざるを得ない。なんせこれだけ薄味だと水の味もクセもごまかしようがない。だから下手な材料は一切使えない。みんな“お里が知れる”からだ。もちろん器もうかつな扱いはできない。

 ただし、この店の味を知ろうとしても行列してまで食べようなんて野暮なマネなどは絶対にしてはならない。あの店の構えを観るに、本来はいちげんさんの旅行者が相手なのではなく、舌の肥えた“本物を識っている”地元のお茶屋関係の人や旦那衆を満足させるレベルの高い店だからだ。彼らなら店内が満員なら「あ、また来まっさ」とさっさと出直す。そして、空いた頃を見計らってまたやってくる。


 だいいち、あの風情のある街並みに行列するなどという野暮をすべきではない。ほら、写真をご覧になって欲しい。自転車で出前に行く板前さんでさえ絵になっているのだ。ここに無粋な行列は似合わないのだが、近来はこの近くの甘味処に信じられないほどの長蛇の列で待つ人がいる上に、記念写真を撮る観光客でごった返している始末だ。

 そうした現象を嫌った為かどうかは判らないが、2004年11月に訪れた際、この場所に懐かしい店はなくなっていた。何度も巽橋に立ち寄っているのに、いつもこのあたりはアマチュアカメラマンとどこかに並ぶ長蛇の列のせいで、通り抜けることすらなくなっていたために全く気づかなかった。
 “ぱんちょ”さんとおっしゃる方のサイトの“京都のおいしいお店”ページによると、2003年5月の時点で住所が“東山区切り通し末吉町上る清本町373”との情報があるので、筆者が知らない間に移転していたと思われる。確認後にまたここに追記したい。

*話が長いワリに写真が少ないのは筆者が暑さに弱いために極端に夏の写真が少ないためである。
 近々夏ネタを増やすために再度、油照りと対決に行くつもりである。


 追記。ここで文章として紹介したのは夏だが、筆者は京都に恋をしはじめた学生の頃から大好きな風景がある。それはこの巽橋の春の風景である。

 このたびようやくそのワンシーンを捉えることができたので、ここに追加しておく。あいにくと筆者が知っている頃ののどかな風景ではなく、それぞれの花々も大きく育ち、季節ごとに観光客が山と押し寄せるようになってしまってはいるが、それでもまるで箱庭のようなその風情はやはりたまらなく愛しい。

■ぶら旅トップページへ


▼巽橋周辺の地図はこちらから▼