『ぶら旅』トップページへはまたはこちらから→ ■■■/*TOMZONE-S SHOWメインブログはこちら→■■■

見出しタイトル
こんぺいとう りょくじゅあん しみず
  
 京都という名を聞くとき、まず思い浮かぶ言葉のひとつが“伝統”だと思う。では伝統とは何か…試しに辞書で引いてみると、『前の時代から受け継いだ、風俗・制度・思想など』とある。言葉にすると解ったような解らん様な、実に軽々しい表現に思える。
 例えてみると解るかも知れない。たとえばあなたがしている日々の努力の積み重ねを、あなたが死ぬまで来る日も来る日も何年何十年も休むことなく続け、さらにそれを途切れることなくあなたの子が受け継ぎ、そして孫が、またその子が、孫が…と何代も何代も受け継いでゆくということがどれほど気の遠くなるようなことかと考えると、アダやおろそかには“伝統”という言葉を口にはできないことに気が付く。
 そう、幸いにも子孫が連綿と続いたとしても、そのうちどこかの代で「私はそんなことはやりたくないよ」と言えばそこで終わってしまうのだ。
 ここにもそんな伝統を受け継ぐ技の店がある。今では“懐かしい味”のカテゴリーに入ってしまう菓子のひとつに金平糖がある。“こんぺいとう”とよみがなを振らなければ読めない人もすでにいるかも知れない。

 こんぺいとう。カテゴリー的には駄菓子に思う人も多いだろう。素朴な砂糖の味の、トゲトゲのある小さなお菓子である。口にすればなんとなく冷たく感じて、噛めば甘さがイッキに口中に広がり、噛まずに舐めているといつまでもほんのりと甘い。

 しかしこのトゲ、どうやってこしらえるのだろうか。イマドキの考え方ならば、何か型に砂糖を流し込んで機械でドドッと作るのかも知れない。しかし金平糖のルーツは古い。なんせ織田信長がポルトガルの商人からお土産にもらったのが最初だとかいう由来があるのだ。
 つまり軽く500年前にさかのぼるのだから並大抵ではない。もちろんポルトガル人は鉄砲同様、製法を教えてなどくれなかった。おそらく鉄砲同様、日本人が見よう見まねから苦心惨憺して製法を見つけだしたのだろう。

 簡単に言うと、餅米を細かくケシ粒状にくだいた『イラ粉』と呼ばれる“芯”に少しづつ少しづつ砂糖の液を掛けながら、回転する巨大なフライパンのような釜をひたすらころがしてゆくのである。これが少しづつ金平糖に“成長”するのだが、一人前の金平糖になるまでなんと14日もかかるそうである。その間、もちろん釜は停めない。廻しっぱなしである。これまたアダやおろそかに食べられない。こんなとんでもなく手間のかかる菓子が駄菓子のわけがない。


 さて、ご紹介するのは京阪出町柳の駅から徒歩で静かな住宅街をゆくこと10分ほどにある『緑寿庵清水』。店の建物につけられた屋号を引き立てるように作られた小さな庭を左へ回り込むといかにも老舗らしいのれんが掛かっている。

 のれんをくぐると、失礼ながら想像していたのとはまったく違った狭い三和土(たたき)があり、それがそのまま店になっている。そして目の前には机があって、そこにはかわいい袋に納まった色とりどりの金平糖がお行儀よくならんでいるのがまず目にはいる。
 そしてその上には桐箱や化粧箱に納まった、いかにも引き出物用とおぼしき高級感あふれる金平糖が並んでいる。下の段も上の段も、その名前を見てまた驚く。

みかん、りんご、ぶどう、桃、梨、ソーダ、ユズ、梅…とてもじゃないが一度では覚えられない。
 右手にある棚には、時代を思わせるビンに白とピンクのすこしおおぶりな金平糖が大事そうに納まっている。

 左手にはまたのれんが。しかしこちらは結界でもあるのか、いかにも一般客は近づけない何かのオーラを感じる。思った通り、奥からはジャーッ、ジャーッという賑やかな音が聞こえてくる。
 そう、のれんの奥が作業場になっているのである。筆者が訪れたのは日曜だったはずだ。やはり一度作り始めると、途中で休むことは許されないらしい。


 視線を戻そう。そのとき並んでいた金平糖は全部で20種類。しかしその時伺ったお話では、それはスタンダード版であり、季節限定…というか、月替わりでさまざまな特別版も各種あるのである。
 さて、ただでさえ手間暇のかかる金平糖だが、『緑寿庵清水』の金平糖が他の追随を許さないのは、どの商品も天然果汁を封じ込めることに成功した、世界にも例のない“お菓子の宝石”だからである。スタンダードでも限定品でもいい。ぜひ口にふくんでいただきたい。ラベルに記された原料のエキスそのものが味わえる、まさに珠玉のような味わいの露なのだ。
 筆者ももちろん全部を知っているわけではないが、リンゴやぶどう、ユズなどの定番的果汁ものはもちろん、ひとつとして人工のエッセンスを使っていないそうで、すべて果汁やエキスを封じ込めているのである。
 月替わり限定商品にもその原則がかたくなに守られている。しかしこれがまたひと味もふた味も違う。一例を挙げると、トマト、さくらんぼ、ブルーベリー、カルピス、ブランデー、吟醸酒…(!)

 いかが?食道楽ならずともぜひとも味わってみたくなったことだろう。
 永い伝統と匠の技を守りとおしていながらも、斬新なアイディアを取り入れた緑寿庵清水の金平糖を口にする人は、必ず一瞬絶句し、次の瞬間に感動することウケアイである。
→金平糖 緑寿庵清水ホームページ

 最後に、くだんの歴史的ガラス容器に入った金平糖は、先代である4代目がこしらえたというアッと驚く60年ヴィンテージものである。もちろん、味に支障はないそうである。


▼金平糖 緑寿庵清水周辺の地図はこちらから▼