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あもや はなおれ
 八坂神社の正面玄関とも言える西楼門に対して南北(八坂さんの存在感が大きいので見た目は左右に感じるが)に伸びるのが東大路通(ひがしおおじどおり)。ここを右つまり南へ120mほど、バス停でひとつ目の“東山安井”の真ん前にあるのが今回紹介する“あもや花折(はなおれ)”である。
 店内はいかにも老舗らしいたたずまいで、ぷうんと香ばしいヨモギやふんわりとした餅の香りが漂っている。
 そしていつも上品なおばさま(おばさま、というのはこういう方のことをいうのだ、と思うはずだ)がほんまもんの、はんなりとした京都弁とやさしい笑顔で迎えてくださる。
 年に何度も訪れるわけではないし、たくさん買い込むわけでもないのだが、行くとちゃんと覚えていてくださるので、懐かしい知人に逢うような気持ちがして嬉しい。

 本店は右ののれんにあるように鯖街道の中継点でもある滋賀県大津らしいし、店のメインは鯖の棒ずしらしいのだが、実はそれを知ったのは最近である。
 筆者がはじめてここを訪れたのは1996年の大みそか、それもかなり夜も遅かったように思う。
 その年は新年を京都を一晩うろつきながら迎えようと考え、その時もライトアップされ人混みにあふれた清水あたりで除夜の鐘を聴いた後、ぶらぶらと坂道を下りて東大路へ出た。

 すると零時を回っているのに真っ暗な夜道に暖かげに光るなんだかなつかしげな店がまだ開いている。明るく光る看板を見ると“あもや”とあるではないか。
 “あも”とは京都弁…いや公家言葉というか、宮中の言葉で餅のことである。
 筆者の明治45年生まれの祖母は京女だったのでこういう言葉をよくつかったせいもあり、そういう言葉をあえて使った“あもや”のたった三文字が「うちで扱っている餅はそんじょそこらの単なる餅ではありません。京の、京ならではの餅ですよ」と強く自己主張しているのと同じだからである。


 その時も夜中にも関わらずすでにかなり売れていたが、昔ながらの風情あるガラスケースに残っていたものも昼間の売れ残りなどではなく、いかにもつきたて、できたてのツヤツヤとした餅であること、しかもそれでも売れているのである。食べなくてもその味やグレードは保証されていることを物語っていた。
 小腹が空いていたこともあったが、そこにあった草餅と大福、さらにトチ餅(栃の実を大変な手間と時間をかけて餅に練り込んだもの)をたくさん買い込み、さっそく近くの自販機であったかい缶入り茶を買って寒空にパクつきながら次の目的地へ歩いた。
 もちろん、草餅もトチ餅も味・香り・歯触りのどれもが感動を与えてくれたことは当然であるし、もっと買っておいたらよかったと多少の後悔を残した。
 最初の写真に写っているのれんには書かれていないが、春に出る桜餅がまた絶品である。右の写真がそれだ。
 いつもはすぐ売れてしまって持ち帰るほど余分に買うことができず、また運良く買えた分は円山公園ですぐに食べてしまうのでこれまで写真を掲載できなかったが、今回ようやく余分に購入できて、家まで持ち帰ることに成功した(そんな大げさなものではないが)のでここにご紹介しよう。
 細かめに砕かれた上新粉のためか、舌触りがなんともいえずつるりとしている。お決まりである桜の葉の塩漬けもいっしょに口に入れて違和感がないほどやわらかい。もちろん、塩加減もきつくない。筆者的には完璧な桜餅である。

 円山公園や高台寺、清水あたりの桜を愛でにゆくならぜひ花折の桜餅とよもぎ餅を買ってゆかれるがいい。小振りではあるが、香りのたかさ、絶妙の塩加減と甘さ加減がついつい食べ過ぎてしまうのである。もちろん、よく売りきれる。だが他のヒトにもあの幸せを残しておくために買い占めだけはしないようにお願いしたい。
 これまでこのページには「いつかこの店のメインである“鯖の棒ずし”が食べてみたい…」と書いてあったが、ついに積年の念願が叶い、スタンダード版の棒ずしを求めることができた。
 冷蔵式のガラスケース越しに見ていた時よりもそれはでかくて、手に持つとどっしりと重いそれは、持ち帰ってから計ってみると800gもあった。

 しっかりした厚みでしみひとつない綺麗な竹の皮をはずすと、予想通りに断面を見なければ、下にすし飯があることなど思いもしないほどごっつい鯖の片身がやさしくすし飯と一体化していた。ごついには違いないが、その身は繊細にしてほどよく脂がのっている。なによりも実に美しい“光り物”だった。

 買い求めた時におばさまが「もう今日召し上がれますよ」と言われた通り、実に絶妙なタイミングのしみ込み方で鯖とすし飯が一体となっていた。
 そもそも鯖寿司は保存食的な性格もあって、大体は一日おいた方が旨いと言われるのだが、すぐ美味しいタイミングで食べられるのは嬉しかった(待ちきれないというのもあったが)。

 もちろん晩酌と共に頂いて、筆舌に尽くせない美味さであったことはいうまでもない。が、しかしたしかに本物の上モノならではの結構なお値段である。おいそれとは求められないことも事実だがそれだけに奮発するだけの値打ちがあることは付け加えておく。

 そしていまでは筆者、完全にリピーターとなり、京都へ行くときは多少無理しようとも小遣いを貯めておいて必ず買い求めるようになっている。一度こちらの鯖寿司を食べてしまうと、ヨソのは頼りなくなってしまうのだ。

 ここまで読んでいただいていて誠に申し訳ないが、実に残念なことに2006年で東大路通りにあるこの『あもや花折』は和菓子部門を終了され、2009年11月現在『京鯖寿し懐石 松長花折』として営業されている。

 なお、ここ以外にも下鴨に鯖寿司の『鯖街道花折・下鴨店』、木屋町に鯖寿し・若狭料理の『松長花折』、Zest御池には和菓子の店を出しておられる。
 もちろんいずれも心を尽くした味を戴けると思うが、筆者としてはやはり想い出もある『あもや』の復活を心待ちにしたい。 


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