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たけまつ おのえちくざいてん
 20世紀後半の高度成長期あたりからプラスチック(それすらも今や塩ビやポリエステル素材になってしまって、時代遅れな呼び名である)に取って代わられてしまったが、竹細工は縄文・弥生の大昔から、日本の家庭用品に欠かせない素材である。

 19世紀、かのエジソンが最初に作った電球のフィラメントも、その量産製品にも京都の竹から作ったカーボンが最高だと絶賛したとか、オリンピックの棒高跳びには20世紀後半にグラスファイバーに取って代わられるまで、世界中の選手たちは京都の竹をもっとも好んだという話もある。

 一時は時代に忘れ去られたかのような感があったが、21世紀に入ると一般の木材に比べて格段に早い成長スピードと、堅牢さ柔軟さを買われて森林破壊を救うエコ建材として注目され、また取り出した繊維を衣料品に転用したり、バイオ技術で取り出した殺菌成分などの“秘められたパワー”などを薬や化粧品に使うなど、日夜世界中でさまざまなハイテク利用法が研究されている。

 まっすぐ揃った腰のある強靱な繊維には独特なしなやかさと粘りがあり、また持ち前の油分のおかげも手伝って、使い込むほどに得も言えぬ味わいのある風合いが出てくる。
 そして京の竹細工は好みのうるさい公家の膝元で1200年間鍛え上げられてきただけに、技術も大変高度に進化し、デザインも使い勝手も繊細で垢抜けている。

 ただ、竹・笹というとどうしても昔和装メーカーがCMにしつこく使ったせいか、嵯峨野を連想される方や、クラフト系のみやげ物店が多い事もあって哲学の道などにも竹細工のイメージがあるが、いずれも観光地化しすぎているために売っているものはあくまで“可愛い系”マスコットとかモビール、一輪挿しや小物入れのような装飾品系統がほとんどである。

 いっぽう、尾上竹材店は生活に沿ったさまざまな実用品を揃えている。
 もちろん店先やカウンターにはこじゃれた小物とかクラフト系のお土産向き商品もあるが、箒(ほうき)や熊手、大小さまざまな大きさの竹ザル、各種用途別の竹カゴはもちろん、せいろ、杓子や扇子、虫籠などの小物から床几やタンスのように昔からある伝統的な竹製品はもちろん、竹のビアカップやレンゲにスプーン、果ては竹の皮を使った草履やフロアランプ、ロールスクリーンからマガジンラックといった現代的な生活雑貨もオール竹製で網羅され、棚から壁から所狭しと陳列されている。
 “竹材店”と銘打っているだけあって、竹という素材にトコトンこだわった店だ。

 またガラス戸つきの陳列棚の中には、作り上げるのにいったいどれ程の時間を要するのか感心してしまうほど繊細な手編みのハンドバッグなどもある。
 しかもバッグにせよ箒にせよ、用途はまったく違っていてもすべて細やかで確かな手仕事によるものなので工芸品としての美しさも備えつつ、イマドキのブランドショップなどで手に入る品物などより遙かに長保ちする頑丈さも備えているのである。
 いや、先ほども書いたように、むしろ竹というのは使い込むほどに味が出てきて、少し壊れたくらいでは手放すなど考えられないほど愛着が湧く。だから修理しては、使い続けてゆく。それこそが日本人が生み出す品物の本来の姿であり魅力なのだと思う。

 そういう意味でも、中には年代を経た煤竹(すすだけ)製の得も言われぬ渋い小箪笥なども飾ってあり、ひとくちに竹製品といっても加工法次第で姿もデザインも使い道も、実に多種多様であることをあらためて実感することができる。
 じつは、夏に弱い筆者が数少ない“京都の夏系ネタ”としてこちらを選んだのは、なんとなく『竹=涼感=夏』といった図式があったからだが、実際にこのお店を訪れると、えもいえない『竹の温かみ』も感じることができたことを思い出した。

 エコだのバイオだの、今風のお題目を唱える以前に、あのひんやりしているのにどこか温もりがあり、たくましくも繊細で優しい“竹”の手触りを楽しみたいものである。

 また尾上竹材店はネットショップという形では出されていないが、Yahooオークションにて常時なんらかの商品を出品されているので、さまざまな商品を居ながらにして買うことができる。
 しかし筆者としてはやはりあの優しくて凛とした清潔感のある竹製品の数々に囲まれながらお気に入りの一品を見つける楽しみを味わっていただきたいと思う。

尾上竹材店Yahooオークションブース


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