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じぇりーのぱい(JERRY'S PIES)
 あちこちで書いているが、筆者はりんご、それも野性味あふれる『紅玉(英名ジョナサン)』のみをこよなく愛している。基本的に紅玉以外のりんごは好まない。交配によってりんご本来の美味さを失ってしまっているからだ。
 加えて、スパイスマニアでもある。それらふたつが一緒になって筆者を惑わすもの、それがアップルパイである。

 もしかしたら20年ぶりになる、嵯峨野散策の最初に足を止めたのがこのお店。これも何かの縁だろう。
 ちょっと道から引っ込んでいたので筆者は見落としたのだが、同伴していた母が筆者のアップルパイ好きをおもんぱかって注意を促してくれたのである。
 あまりにも手描きなポスター、いかにもワープロで出したらしいPOP。おもわず店の入り口にあったメニューに見入っていたら、ニコヤカな白髭の外人のおやっさんが近づいてきて話しかけてこられたのである。
 たぶんこの人がポスターの似顔絵の本人だと思ったものの、こうも見事にシロクロ逆転していると、もしかしたら親子二代で店をやってて、この人はポスターの人のお父さんでは…とまで考えたのは束の間のことだ。


「これ、僕が、作ったね。中で売ってる。いろいろある。」と写真のメニューチラシをぽちゃぽちゃした指先で指しながらひとつひとつ説明してくれた。
 メニューをご覧のように、実にバリエーションに富んでいる。デザート系もさることながら、日本ではあまりお目に掛からない総菜系のパイもある。だがひととおり説明をおえたジェリー氏、「これと、これと、これ。もう売れた。今あるの、これと、これね。」うーん、残っている種類の方が少ない。「あらら。売り切れですか」フツーに日本語で質問する筆者。
「でも、これも美味しいよ。いま、ないけど」そう言いながら店内へ戻られるジェリー氏。
 筆者の英語力ではどうしようもないが、突っ込みたくて仕方ないノリの会話である。

 ともかく、アップルパイの魔力に抗うことなどあり得ないので、そのまま彼にくっついて店内にお邪魔する。店内といっても失礼ながら工場そのもの。広いのだが、玄関から左に見える棚が結局売り場のすべてなのである。
 その奥では日本人女性がパイのラップ包装を、右手では店内へ戻ったジェリー氏がにこにこ顔のまま生地をこね始めていた。

 女性はほがらかにパイの大きさと値段の関係を説明してくれたが、最初から筆者の目当ては大サイズ。他の種類も食べてみたかったが、嵯峨野散策をはじめてまだ5分ほどだったので荷物になることを考えてとりあえずひとつだけにした。
 包んでくださるところの写真をお願いすると気軽に応えてくださった。右の写真をご覧のように、彼女の手の中にあるそれはパイと言うよりオランダ産チーズのように見える大きさだ。

  日本でアップルパイというと、ブラッスリーなどでは扁平ロール型とでもいうか、敷いたパイ生地の中央に具を載せて左右から包むようにしたタイプか、ケーキ屋でも円形のパイ生地に具を載せてから同じサイズの生地をのせて周りを封じたカタチが多いと思う。異なっていてもせいぜい円盤形の範疇を出ない。

 だが『ジェリーのパイ』は、よく外国映画で見かけるナベ型なのである。“深さ”があるのだ。
 女性の写真の奥にある顕微鏡だか万力だかのような器具が生地をナベ型に加工する器具なのだと思うが、最初に下のパイ生地を器のカタチにし、具を入れたあとでフタをする方式のようだ。

 もしかしたら、と思った通り、受け取るとかなり重い。手にずっしりとくる。
 いつのまにか仕事の手を止めたジェリー氏がまた傍らにやってきて、温め直しの仕方を説明してくれた。「ExcuseMe, Thank you Very Much」と礼を言うと「Oh, You can speek English?」などととんでもないことを仰るので「No,No」とあわてて否定。でも恥かきついでに「ExcuseMe, One Picture, OK?」とデタラメなお願いをしたらこの見事なえびす顔を撮らせてくださった。ここまで写真映りが良い人は日本人にはなかなかいない。物怖じせず、妙なポーズを構えない欧米人の素敵なところだ。

 店を出て良い気分のまま人の気配がさらに少なくなった頃合いを見計らって、さっそく路上でぱくつくことにした。実はこの日は朝食抜きで京都まではせ参じたのである。
 ここで筆者の悪い癖が出た。
 食べ始めてから、写真を撮っていないことに気づくのだ。ブログの方もそうなのだが、そのせいで食べ物系記事は極端に少ない。したがって、左の上から二番目の写真は持ち帰った残りを再加熱してから撮影した。まことに行儀が悪くて面目ない。
 だが、あえて食べかけを写すなどという恥をさらしたのはその中身のボリュームをお伝えしたかったからだ。

 そんなわけで右の写真は、筆者の話を聴いた会社の同僚の女性が数日後に電話で購入したもの。下の二つは初めての時に食べられなかった、『鶏肉とマッシュルーム』であるが、大きさは中サイズ。ベシャメルソースの塩加減は上々で、チキンの甘みとコクがちゃんと活きていた。辛口の白ワインが欲しくなる一品である。


 その時は中サイズふたつを四人で分けたのだが、3時のティータイムにしてはかなりのボリュームだった。
 さらに日を改めて、『牛肉&ビール』『野菜&チーズソース』でのティータイムを開催。そちらは完全に惣菜パイだったわけだが、親指大以上のでかい牛肉がごろり、ごろりと出てきたのにはたまげた。ジェリー氏の故郷的には当たり前なのかも知れないが、日本でそうそうお目にかかれるボリュームではない。しかも、肉は柔らかく、こくのあるソースはさっくりしたパイ生地に実によく合っている。ほんとうに美味い。
 質・内容共に完全に立派なランチメニューであるが、やはりワインかビールが欲しい。


 話を戻そう。中サイズでさえそんなである。大サイズ、ずっしり重いのもそのはず、バクバクと1/4ほど食べたにもかかわらず、もちかえったそれを計ると250gもあったのだ。ということは完品なら300g以上あったのだろう。
 味がまたある意味驚いた。実に、実にシンプルなのだ。
 アップルパイというと単純なようで、使っている林檎の種類や時期、その加工法、またパイ生地との組み合わせ方に焼き方、そして必須スパイスであるシナモンの加え方などでずいぶん味わいが変わってくる。

 そうは言っても、パン屋さんもケーキ屋さんも、個人店もチェーン店もそれほど大差はない。バターの効いたパイ生地、砂糖でこってり目に甘く味付けした煮りんご、そしてシナモン。材料も基本も変わらないからだ。ある意味、これは日本式と言えるのかも知れない。
 だが、ジェリー氏のパイはそうした小細工が一切ない。逆にこんなシンプルな味わいのパイは珍しい。言ってみればジェリーさんの『お袋の味』なのだろうか。次回、訪れたときは片言でもその辺をお伺いしようと思う。
 リンゴそのものの味わいを活かしたアッサリ目の甘さも筆者好みである。なかでも嬉しかったのはその林檎の食感。シャキシャキ感があるのに、しっかりペクチンのとろみもあり、やさしい酸味もある。
 紅玉至上主義の筆者としてはもっと酸味があってもいいのだが、そうなるとバランスを取るために甘みも加えないといけないので結果的に濃い味になってしまい、この素朴さは失われてしまうのだろう。


 最後に、購入の参考までに、ジェリー氏からいただいた、2008年4月時点でのメニューチラシを載せておく。
電話注文やFAXでの注文、そしてネットからの注文に対応している。 
『JERRY'S PIES』ホームページ■■■

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