桜は散るからこそ美しい、と誰かが言っていた。
それは単におセンチな負け惜しみかも知れないが、疏水をせきとめたダムに集まる花びらがつくりあげた見事な花筏を観ると、散ってなおこれほどの美しさを見せてくれるのかと感動せずにいられない。
ちなみに、ここに写っている桜はソメイヨシノよりも少しあとに咲く、色もやや濃いめの別の品種のように思える。
ここは夷川水力発電所のそば、撮影日は2009年4月11日である。
はるか琵琶湖から山科を流れ、蹴上(けあげ)や南禅寺をかすめて、動物園やふたつの美術館そして平安神宮のある岡崎と呼ばれる一帯の傍らを、流れる先々で無数の桜の花びらを集めながらここまで流れ着くのだ。
ここからもう200mも西へたどれば加茂川に合流する。
あいにくせき止められたこの花びらたちが流れ込むことは滅多にないが、加茂川は加茂川で、また別の桜が散って水面に舞い、こんどは大阪目指してはるばると下って行く。
もちろん、見方を変えれば落ちた花びらは今風で言うところの、生ゴミ以外のなにものでもない。
秋の落ち葉も同様だ。
しかし自然本来の姿は、ふたたび土に還り、次の年、また次の年の花のための肥やしとなるはずのものだ。
散る花は、未来の花を観ることはない。積み重なる落ち葉はただむくろとなるのみだ。
それでも花は、葉は、未来のために咲き誇り、青々と茂るのである。
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