面白いのはこの『くくり猿』の効能で、普通は神様仏様への願い事というのは「〜したい」とか「〜が叶いますよう」みたいな「give」、すなわち自分のなんらかの希望を叶えてくれという欲望を託すものなのだが、このくくり猿は少し違う。
その姿のままに、人間の中の欲望を戒めるための祈願なのである。
つまり自分の弱いところ、ヘタレなところにカツを入れるのが目的なのだ。なんとストイックな願かけだろうか。
そして八坂の塔を訪れるにあたって忘れてはいけないのが『庚申堂』である。
塔へ向かう坂の途中、八坂の塔のすぐ手前に、この『くくり猿』をいっぱい奉納してあるお寺さん、金剛寺庚申堂、通称『庚申(こうしん)さん』がある。
この『ぶら旅』でも度々書いているように、どういうわけか人は数人のグループで観光に来るとお喋りに夢中になって、互いの顔しか目に入らなくなるものらしい。
しかしその“法則”のおかげで、牛歩戦術のように込み合う有名処でも嘘のように人の少ない真空地帯が生まれるのであるが、まさにこの『庚申さん』がそういうスポットだ。
どんなにこの狭い坂道を大勢の観光客が塔目指して、またその先の二年坂やねねの道を目指してえっちらおっちら、ワッショイワッショイと昇ってゆこうとも、何故かこの庚申さんに気づいて絶ちよる人は少ない。
もちろん多少目ざとい人はお堂に吊られた無数のくくり猿の艶やかさに惹かれて入ってくるが、けして多くはない。