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 比叡山。歴史の舞台としてもあまりにも有名な霊峰だが、実は高さ848.3mと838mの二峰からなる“ツインピークス”である。だがそれ程の高さでありながら建物がひしめくようになってしまった現代では、北東方向に空が開けた場所に出ない限りは洛中でその存在を意識することは少ない。

 だが川端通りなど南北方向にまっすぐ伸びて比叡へ繋がる通りや、御池通りのような大きな通りの交差点などで何げに北東方向へ眼をやれば、道の彼方に思いのほか高い山がヌッとそびえていることにあらためて驚かされる。
 五山の送り火が洛中どこからでも観られたという明治大正以前の頃なら、間違いなくどこからでもその偉容を拝めたであろう、王都鎮護のカナメとなる偉大な山である。

 上の写真は京阪三条から比叡山への登り口へと至る、京阪石坂(いしざか)線:五つ目の駅、『四宮(しのみや)』あたりだったと思う。2012年11月10日。既に山は錦に染まっている。いやが上にも期待は高まる…

 しかしたとえその半分の高さだとしても、いざ登るとなると大変なのが山というものだが、ありがたいことに延暦寺のある山上に登るのは実に簡単で、ケーブルカーとロープウェイを乗り継ぐだけ、という手軽さだ。おもだったポイントである東塔だけを巡る程度なら、その運動量はハイキングと言うのもおこがましいほど手軽である。
 この日も80歳になる老母と共に、街なかへ買い物にでも行くような普通の出で立ちで出掛けたのであるから、その難度の低さが分かろうと云うものである。

 しかも上がり方も京都側の八瀬(やせ)からと、滋賀県坂本(さかもと)からの2ルートがあるので、地理的な都合に合わせられるだけでなく、上がり口と降り口を変えることで山の尾根線を通り抜けるなど、変化に富んだ行き方ができる。

 今回は自宅最寄り駅を7時すぎに出発、9時頃に京阪三条に到着、そこから市営地下鉄東西線乗り入れの通称『石坂(いしざか)線』に乗って、坂本駅を目指すコースを選択。

 写真は京阪三条〜京阪坂本に至るうち、途中の分岐点である、浜大津(はまおおつ)駅を出て三井寺(みいでら)までの併用軌道の様子。平たく言えば路面電車の風情という意味だ。
 かつて、市営地下鉄東西線ができて相互乗り入れのために地下線化するまでは、京阪三条から京阪山科(やましな)まで、こうしたオツな風景───それも坂道で───が続いていた。

 情緒にあふれる京都市電が廃止されてからも、しばらくはそれらが寂しさを慰めてくれたものだったが。

 ヴぉーん…という、電車の警笛なのに楽器のような余韻のある音色を響かせながら、おもむろに路面へと滑り出す。
 鉄道マニアならずとも、この独特な雰囲気は充分楽しいのではないだろうか。機会があれば、いつか降りて地上側からゆっくりとこの光景を撮影してみたいな、と思う。


 乗ること半時間ほど。やがて到着した坂本駅から街頭の案内板の示すままにケーブル坂本駅を目指すと、すぐに日吉大社(ひよしたいしゃ)の大鳥居にでくわす。
 ここも既に錦秋の趣だ。

 ご存じのように太閤秀吉の幼名は日吉丸(ひよしまる)と言った。のちの大政所(おおまんどころ)である秀吉の母親が、元日に胎内に日輪が飛び込んだ夢を見たのちに授かった事、日頃から信心していた日吉神社にあやかり、生まれた男児に日吉丸、と名付けたとの“伝承”である。

 もっともここを総本山として、日吉大社は全国に40箇所はあるそうなので、実際にここがどれだけ彼とのかかわりがあったかは分からないが、いずれにせよ滋賀の地は若き日の秀吉と因縁浅からぬ土地でもあり、無縁であろうとは思えない。

 入り口でさえこのような美しさである。ご覧のようにここも紅葉の一大スポットなのだが、ここで足止めを喰らっていては、目的である比叡山まで行けなくなってしまう。

 後ろ髪を引かれる思いで軽い上り坂の参道を道案内に沿ってカエデを愛でつつ、ゆっくり歩く事15分ほど。約1kmほどであろうか。やがて坂の先に古風ながらもハイカラな風情のケーブル坂本駅が見えてくる。

 この建物、山上の比叡山延暦寺駅とともに、ケーブル開業の1927年(昭和2年)当時のもので、登録有形文化財としても指定されている、鉄道マニアにはよく知られた名物の駅舎である。
 ここまで来ればひと安心である。

 この時点で既に11時50分。ここに至るまで、筆者が少々焦り気味だったのには理由がある。
 とにかく、後にも先にも『京都の紅葉シーズン』とはすなわち、どこへ行っても異常なほどの人混みに出くわす…ということを覚悟しないといけないからだ。場所しかり、乗り物しかり。

 この撮影をしたのは2012年11月10日。紅葉の遅い近畿の地上でもそれなりに樹々が色づき始めている頃で、まして冷涼で朝晩の気温差が激しい山の上は既に紅葉真っ盛りである。
 それでなくても観光業界、そしてJRのキャンペーンのように、夏の終わり頃からこぞって京都の秋を宣伝して「やって来い」とあおり立てているのだ。日本全国どころか世界中から個人団体問わずの観光客が大挙押し寄せて来るのは当然だ。

 まして比叡山は五指に入る紅葉の有名スポット。ケーブルカーがさながら通勤ラッシュのようなありさまでギュウギュウ詰めになるのは予想に難くない。
 そんな状況をかいくぐって、土日でありながら落ち着いた風情で静かな京都の秋をゆったりと堪能する…という難題をクリアするのが『京都おちこちぶらぶらよそ見旅』がテーマだが、今回採った方法は『早駆け』だった。

 予定では始発で家を出るはずが寝坊してしてしまったこともあり、結果的には早駆けにはならなかったのだが、それでもこの時間(11時50分)にもかかわらず、運良く駅も空いていた。一本ケーブルカーを見送って駅を撮影する余裕すらあった。

 《その二へつづく》

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