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 ───というよりも、一本ケーブルカーに乗るのを見送る事により、車内からのベスト撮影ポジションを確保したのである。そろそろ混み始めてはいたが、立ち乗り客もなく、満員とまではまだ行ってない。おかげで窓際でカメラを構えても、他の客の視界をさえぎってしまうといったような景色のワガママ独占状態にはならないで済んだ。

 この時点でも文句の付けようのない青空・晴天で、私がいままでに遭遇した紅葉風景としてはベスト5に入る状態だったのだが、それどころか、この後、一生出くわす事のないほどのサプライズが待っていた。

 するすると登ってゆくケーブルカーは実に快適で、鬱蒼と茂る樹々の間から下界が垣間見られるようになるまで、わずか三分足らず。たちまち琵琶湖を望む絶景が拡がる。それも左の写真のように地上側の窓に陣取っていればこそ拝める風景だ。しかしゆっくり楽しもうにも、わずか11分、アッという間に延暦寺駅に到着。

 だが実は、本来であればここには40分以上早く着いていたはずであった。
 というのも、京阪三条から坂本までの直通ではなく、途中で乗り換えが必要だったのだが、筆者はコッチ方面が不慣れなためと、プリペイドカードから切符への乗り継ぎにしくじった為に遅れてしまったのである。
 その遅れが災いしたのか、山上に着くとそれまで青空だったのがたちまち雨雲が琵琶湖側から上がってきて、ザザッと降るにわか雨に見舞われた。京都盆地を囲む山々の最高峰だけのことがあるのか、山の天気は急変するとは聞いていたが、秋にしては雨粒は大きく、まるで夏の夕立のような雨量だった。


 同じケーブルカーに乗ってきた人たちは、昼食に使うつもりだったのか手持ちのビニール風呂敷を被ったり、用意のいい人は折りたたみの傘をひろげつつ先を急ぎ足で三々五々駅を去った。筆者もカサは持っていたが、ケーブルなど交通機関でのラッシュを避けるのが早駆けの最大の目的だったし、もうあとはのんびり歩いて反対の京都側から降りて帰るだけ…とタカをくくっていたので、山上駅前にある休憩所で雨をしのぎながら早めの昼として、持参した握り飯を食べる事にした。

 人の波も去り、ひとときの落ちつきをとりもどした駅前広場。自分を含めて数組、20人と人は居なくなった。やがて降ってきたときと同じように急に雨は上がり、うそのように澄み渡った青空が戻る。まさに、雨雲が比叡山を早足で駆け抜けていった感じである。

 撮影は2012年11月10日。時間は12時55分。

 それでなくても空気の澄んだ秋の日だったが、さらに雨が空気を洗い流したためだろう、琵琶湖の対岸どころかさらにその向こうまで驚くほど澄み渡った。
 この風景を眺めながら握り飯をほおばる幸福感と充実感は最高であった。慌てて移動しなかったので得をした。

 比叡山上駅の駅前広場はそのまま琵琶湖方向へひらけた展望台でもある。とにかくおそろしく眺めがいい。
 気持ちの良い秋風が吹き、雨にぬれた樹々に昼の陽射しがきらめいて美しさを際立たせる。

 ふと、ある事に思い当たった。突然の驟雨、澄み渡った空気、そして射し込む陽射し。もしやと思い、別方向の展望台へ歩み寄った。

 私は泣きそうになった。虹を見たのも久々だったが、まさかこんなカタチで拝む事ができようとは。

 部分アップ。虹の向こうに琵琶湖を背に見える突起状のものは、大観覧車であり、その先に琵琶湖を渡って右方向へ伸びているのが琵琶湖大橋である。
 その橋桁さえも見事に写るほどに空気が澄み渡っている事が分かる。

 駅には人に慣れた野鳥さえも訪れた。
 なにげに見ていると、駅長さんの手からエサをもらって翔んで行くではないか。駅長さんにしてみれば、これは日常の事なのだろうが、筆者にしてみればこれらの何もかもがまるで演出されたかのように思えるほど、夢見心地な気分になった。

 この世の全ては偶然が必然に、必然が偶然に起こるものとはいえ、もしもスムーズに電車の乗り換えをしていたらずっと早くに山上に着いていたし、そうであれば当然イラチ(せっかちでこらえ性のない性質を表す大阪弁)な筆者の事、やはり先を急いで歩いて行ったはずだ。ならばこれらの風景や風情を知ることはなかった。

 また、同じようにずれたタイミングで山上へ上がっていたとして、もし雨が上がるのを待たずに先を急いでいたらやはり見逃していたし、空腹を覚えて握り飯を食べようと考えなかった場合でも、虹に出逢う事はなかった。

 筆者は自他共に認める『超晴れ男』であり、また雨が降る日でも『妖怪カサイラズ』を自負するほどに雨のせいで不利益を被った事が無いに等しい。だが、これほど雨に降られてトクな思いをしたのはあとにも先にもこれだけだ。

 さらにその時は分からなかったが、帰宅後にMac画面で画像をチェックしてもっと驚いた。

 こうした展望台には必ずといっていいくらい、ドコに何があるのかを実際の風景に指し示した案内板がしつらえてある。
 それによれば、まさに今(2014年11月10日時点)も哀しい事件をはらんだまま立入禁止となっている、『木曽の御嶽山(おんたけさん)』がしっかり見えていたのである。

 あまりにも贅沢な体験をさせてもらい、なかなか立ち去りがたかい展望台だったが、ここはあくまで比叡山ハイクのスタート地点である。いくらなんでも、そろそろ出掛けないと次のケーブルカーがさらなる大勢の客を運んでくるだろう。なごり惜しいとはいえ、なんとも満ち足りた気分で、駅を後にした。
 まだ、これが比叡山ハイクのスタートラインなのである。

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