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 雨後ではあったが、よく整備された舗装路なので歩くのになんら問題はなく、ほどよく濡れた事でむしろ色が冴えた紅葉を右へ左へと眺めながら、比叡山東塔へと足を向けた。

 かれこれ30年近く前にも一度来てるのだが、その時は適当にうろついた上によく下調べもせずに最も遠い横川中堂まで足を伸ばしたため、ずいぶん疲れて、挙げ句には帰り道で途方に暮れた印象がある。しかも帰りはバスを待ちくたびれ、クタクタになって帰宅したろくでもない記憶しかない。

 だが今回は当時と異なりそれなりに計画的だったし、いくら脚達者とはいえ、80歳を越える母と日頃慢性的な運動不足な自分の体力を考慮してのコース取りだったので、まったく無理のない、甘ちゃん向きのコースである。

 なので東塔の根本中堂、阿弥陀堂、文殊楼などをひととおり観た後はまっすぐ京都側へと降りるべく、叡山ロープウェイ比叡山山頂駅のある、ガーデンミュージアム比叡を目指す。

 あいにく根本中堂など比叡山の主要な塔頭は撮影禁止なので画像はないのだが、信長軍の襲撃にも消えずに残った伝説の宝灯など、さほど歴史に興味がなくても、それなりに戦国系の時代劇を見た事ある人なら「ああこれが!」と知れるだけのものがあり、楽しめるのではないだろうか。

 もっとも、今ではあの比叡全山を火の海にしたという大虐殺説も、あるいは信長一流の計算され尽くした政治的プロパガンダ…つまり情報が口伝えでしかなかったアヤフヤな時代の流言の雪だるま的膨張効果と、ゴシップ好きで全国レベルでの拡散力を秘めた京の人々の伝播力を利用・計算した“でっち上げ”ではなかったか、との説もある……などのネタを頭の隅に置いて見学してみると、また違った印象で歴史的建造物が観られるので、それも一興である。

 そうした理屈系を抜きにしても、ご覧のように見応えのある紅葉風景が全開である。
 例年のことだが、こうした風景になるタイミングを計るのは容易ではない。カレンダーに合わせた休日しか取れないサラリーマンにとっては、それを狙って京都へ来る事自体が勝率の低い博打と言っても良いだろう。

 それだけに、数回、いや数年に一度の大当たりに出くわすことができたなら、もう何も考えず頭を空っぽにしてその空間に浸るだけで、これまでのハズレの数々が帳消しとなるほどの満足感を得られる。どこへカメラを向けようと、複雑で立体的な立地条件のおかげでさまざまなシチュエーションでの紅葉のたたずまいが勝手に絵を創ってくれる。
 まして陽が傾き出す時刻に居合わせると、複雑な光と影が創り出す味のある光景に多く出くわす可能性が高まる。

 むしろ、寺仏が目的でないなら、根本中堂周辺だけでもみどころは充分といえる。
 なにせ山の上のことなので寒暖の差は地上よりもはるかに激しく、たった一週間で見ごろのピークは去ってしまう。

 まして晴天のおだやかな日ばかりではない。さきの雨もそうだが、色づいているという事は、いつでも“散る準備”も整っているという事だ。
 もっとも、散りモミジもことさら美しいが、それとてもタイミング次第ですぐに色を失って土に還ってしまうのである。

 毎度毎年の事ながら、紅葉ほどそのタイミングを計るのが難しい自然のイベントはない。サクラの見ごろもなかなか掴みにくくはあるが、ある意味もっとも数の多いソメイヨシノを基準として、いつ咲くかは日本中の基準木から目当てが付けやすいし、咲き始めたらおおむね二週間という目安がある。
 また、サクラは一種類ではないとはいえ、だいたいソメイヨシノと前後して咲くので、その鑑賞期間を延ばすことにも貢献すると同時に予定を立てる際も満開から散り際のピークが読みやすいのである。

 それに自分の休日が合致しないなら画策して花見ができるよう有休を取るなり、最初から無理だと諦めてしまうなりという“予定”が立てられる。

 ところが、である。紅葉と書いて“もみじ”と読ませてはいても、モミジだけではないし、それだけでは面白くならないのが『紅葉』だ。
 銀杏やブナの黄色、けやきの褐色、同じ赤でもハゼやソメイヨシノの橙色、さらには常緑樹の緑など、さまざまな色の予期せぬハーモニーこそが山の秋を彩るからこその醍醐味だが、それゆえにそれぞれの色づきのベストコンディションが同じタイミングで揃うはずがない。
 ましてや植物には同族でも品種違いや個体差まである。さらに同じ場所でさえ、日なた日陰に風当たりに雨の当たり具合など植わっている環境が加わる。そして我々が見に行く“その時”の天候。そんなのが人間サマの都合に合う方が奇跡、どうかしている、というわけだ。

 ただ、サクラの場合と異なりその分、期間は長くなる。京都の場合は11月の第二週から、12月の中旬あたりまで。
 その中で絶景に出逢えるのは、たまたま様々な植物たちのもつバラバラな紅葉あるいは黄葉のピークが偶然似たようなタイミングで合致した場合、ということだ。

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