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 山科散策の打ち止めは、『ぶら旅』としてはメジャーな部類に入る『毘沙門堂(びしゃもんどう)』。春の桜、秋の紅葉で有名…ということで聴いてはいたものの、お恥ずかしい話だが、筆者は名前だけでどこにあるのかさえ長い間知らなかった。

 しかもあえて探してみて驚いた。以前二度ばかりすぐそばの山科疏水まで、それも疏水の端から端まで歩いていたからだ。
 というのも、山科方面は一般的な京都のガイドブックにほとんど掲載されていず、あっても勧修寺以南のみで縮尺率も高いめのあっさりした地図だけ。

 訪ねてみると判るが、これまでの記事をご覧のように山科はなかなか興味深く、むしろ地図に詳細が描かれている他のエリアでつまらない場所はいくらでもある。
 ただ、詳細な情報を盛り込んだ地図一枚を描くのには大変な労力が必要である。さらに雑誌形態である以上、『京都』というキーワードで連想されないエリアは掲載しても注目度は低く、当然広告も集まりにくい。したがって採算が取れないエリアはたとえすぐ隣がメジャーな観光スポットだとしても、トリミングする際にはより注目度の高いエリアを採用せざるを得ないし、ましてその空きを埋めるために新たな地図を起こす事はこのご時世では難しいのである。


 逆に言えば『ぶら旅』のようなひねくれた京都紹介コンテンツにはうってつけだとも言える。

 ただし毘沙門堂、知っている人には有名なスポットでもあるし地元の信仰も篤いのでそれなりに訪れる人は多い。ちなみに訪れたのは11月23日。
 筆者の場合は前の記事にある大石神社から十条通りをえっちらおっちらと1.4kmばかり歩いて地下鉄東西線椥辻(なぎつじ)駅から山科駅まで電車を利用している。
 本当は山科の街なかをのんびりと歩きたかったが、時間はすでに15時を回っていた。京都において16時は神社仏閣すべての就業時間である。道を急がざるを得ない。

 京阪、JRそして京都市地下鉄東西線共通の山科駅からはほぼまっすぐ北に1.2kmほどだが、この山科の駅から北へ向かうのに結構とまどう。とくに京阪の駅からは一般住宅前の路地みたいな道を線路に沿って東へ向かうと、看板に出くわすといった具合。
 もしかしたら直接北側へ出る方法があるのかも知れないが。
 あとは道なりに坂道を上がってゆくと、以前記事にもしている疏水に出くわす。それが丁度距離の半分にあたる。この時は桜の紅葉がけっこう美しかった。

 焦る気持ちをおさえつつ到着してみると、時間が迫っている割には観光客は多く、安心してゆっくり周る事ができた。
 遠目には普通の石段に見えたが、この記事トップの画像をご覧になるとお分かりのように、途中の角度切り返しの下に立つとかなりの急階段である。しっかりした石段ではあるが、よそ見しているとそれなりに足もとは危なっかしい。
 しかし見上げて良し、振り返っても見事な紅葉が眺められるので誰しもカメラを構えずにいられない。


 登り切ると平均的な寺院程度の広さを持つ境内が拡がり、文字通りの毘沙門堂などが広場をとりまくように建っているという構造。まわりは見事な紅葉でなるほど、これだけでも来た甲斐はあったと言える。
 ¥500だったかの拝観料を払えばお堂に上がって中を観られるらしいが、仏像にはあまり興味のない筆者、申し訳ないがどうせありきたりだろうと判断してスルー。そのまままた石段を降りて帰ろうと思ったが、ふと振り返ってみると脇に鳥居がある。ということは昔ながらの寺社混在ということだし、神社なら無料がセオリーである。
 無料なら…とそちらへ行ってみたのが良かった。

 その先にあったのは弁財天。しかも数段昇った先にあるお堂はなんとも瀟洒で美しい。
 そしてこのお堂の左手には、『晩翠園(ばんすいえん)』と名付けられた毘沙門堂の回遊式庭園が拡がっていて、拝観料も払ってないのにこんなベストポジションでそれを眺められるのだ。

 実に変化に富んだ、観ていて飽きない庭園だ。甲高く啼く晩秋の小鳥のさえずりなどに耳を傾けつつしばらく見惚れていてすっかり忘れていたが、よくよく考えてみるとこの池はさきの石段を上がった山の上にあるのだ。毘沙門堂、弁財天宮、そして晩翠園。この周辺はかなり三次元的に凝った面白い立地条件なのだ。
 しかし少なくとも、この記事を書くに当たって写真を見直しながら足跡をたどるまで気づかなかった。

 最後になったが、毘沙門堂の由来はかなり古く、寺内に掲げられた高札によると最初は西暦703年で、その百年後くらい後に最澄が手ずから造った毘沙門天を納めた事によるという。しかもその後の戦乱で荒廃していたのを復興したのが天海、つまり家康の少年時代からのブレーンを務めたあの著名な僧侶だったというから、歴史ファンにはなかなか味わいも深いというわけだ。

 下りの石段はなまじ周りに開放感があるためになかなかダイナミックな眺めだ。桜の季節にもぜひ訪れてここに加筆してみたいと思う。
 秋の日はつるべ落としと言うが如く、さすがに山科の駅に戻った時はまだ17時過ぎだったにもかかわらず、黄昏に日が暮れていた。とにかく持ち時間ギリギリまで歩くのが筆者『ぶら旅』の流儀だが、やはりもう少し余裕があったほうがいいのだろう。
 とはいえ、思っていたより山科巡りはなかなかに密度が濃く、ゆったりと楽しめるコースなのは間違いない。
 ありきたりの京都観光に飽きた方の次のステップとしても面白いのではないだろうか。

▼毘沙門堂付近の地図はこちらから▼