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ほうでんじ
 桜の季節に近畿圏以外へ旅行したことがないので断言はできないが、筆者は都市クラスの人口密集地で京都ほどやたらに桜の木が植わっている街を知らない。

 特別な手入れや扱いをされている幸運な桜は別として、一般的な桜の寿命は約60年と言われているらしい。桜は傷口からの病気感染に弱く、剪定だけでなく枝が折られたり害虫の侵入など単純なことが原因で立ち枯れしてしまうこともあるので、基本的には枝は切らずに植えっぱなしの放任式がほとんどである。
 逆に梅は適宜剪定してやった方が新芽の発育が良くなって、次年の花付きが格段に良くなる。つまりこれが一般に知られる「桜切るバカ、梅切らぬバカ」の由来である。

 仮に桜の寿命60年説を鵜呑みにしてみると、現在京都の街中で春を盛りと咲き揃う桜たちは戦前の生き残りの老木銘木以外は、同じ場所で何度も植え替えられたか新たに植樹されたことになる。
 なるほど筆者が幼い頃刊行された京都関係本で春の写真などを見ても、今とあまり変わらない樹高や密度で桜が咲き誇っているところをみれば、思いのほか入れ替わっているのかも知れない。


 桜というのは咲いているとそのまわりの空気さえもまったりとしたものに替えるような気がする。桜という花木は奇妙なもので、実は色合いとしてはけっこう地味である。派手さで言えば同じ桜でもこのあとに咲き誇る八重桜には遠く及ばないし、風に乗る芳香があるわけでもない。

 だがパーツが地味なはずのこの花、遠くの山にポツリと一本が咲いているだけでもたしかに「ワタシは桜です」と目立って主張する。まさに存在感とはそういうことなのだろう。だがさすがに京都ほど街ごと桜だらけになってしまうと、たとえ見事な咲きっぷりであっても皆目気づかれないこともあるようだ。
 ここ法伝寺もそんな桜スポットのひとつではないだろうか。

 秋の紅葉で知られる真如堂(真正極楽寺)の門前にこんな見事な桜のスポットがある。
 入り口には石造りの鳥居が立つ。明治までは神仏混合なので驚くには至らないが、中国の文化大革命なみの強烈さで廃仏毀釈やら神仏の徹底的な分離が図られたことを思えば、御所からもそう遠くない真如堂───真正極楽寺の膝元が手つかずに残ったのは奇跡的だ。
 だがもしかしたら真正極楽寺がかの三井財閥の菩提寺だったことと関係があるのかも知れないが詳細は不明である。
 『法伝寺』とあるように、どんな立派な鳥居があろうとも寺なのである。たしかに境内におられたのは神主でも萌え衣装の巫女さんなどではなく、紛う方なき作務衣姿の坊様だった。
 しかし正門にあたる構えの前に立つ石柱にはダ枳尼天(だきにてん)としか書かれていず、その名前もたまたま境内で忙しそうに用事(軽四を洗っておられた)をされていた住職らしき方をとっつかまえてアレは何と読むのか、ここは何という神社かと訊き倒した結果である。

 実際にはダ枳尼天の“ダ”は“託す”の言偏(ごんべん)を口偏(くちへん)に替えた文字だが、ATOKに「そんな字ぃはおまへん」と一蹴されたので、仕方なく昨今のマスコミみたいな当用漢字とかなをまぜこぜにする不細工な表記になったことをお詫びする。

 境内はいたってシンプル。石畳の参道に沿って鳥居から拝殿までが一直線に配置され、中ほどには狛犬が守る休憩所風屋根付きベンチがしつらえてある。

 内部を見上げると三十六歌仙の額があり、本来は舞などを神様に奉納するためにあったはずの舞台のなごりなのか、それとも北野天満宮にも似たようなのがあったことを思うと、舞台でないにしてもなんらかの意味のある場所なのだろうが、勉強不足でここで解説するには至らず。
 嫌がられようとも、次回はもっと坊様に説明を求めたいと思う。
 もちろん人が少ないとはいえ、皆目誰も見向きもしないワケではなく、地元の人とおぼしき親子連れなどがお参りしていた。


 それにしても毎回思うのは、ほんとに観光客というのは視界が狭いというか、一本気だなあということだ。
 これほど真横でわんさかとばかりに桜が咲いていても、眼前のメジャースポットである真如堂以外ほんとにアウトオブ眼中でさっさと歩み去ってゆくのだから、ほんと真面目にもホドがあるというものだ。
おかげで筆者のようによそ見ばかりしている方がトクをするわけだが。

 法伝寺でひと息ついたら、のーまるな観光客に混じって真如堂の桜を観賞。でもコレも不思議なことに秋の紅葉の時のような混雑や、通行や美しいものの鑑賞を妨害する大型三脚の林立はない。『真如堂=秋の紅葉』という図式が方程式のように定着してしまっているおかげである。ありがたし。
 《次回金戒光明寺へつづく》

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