さすがに上之社を越えると下り道ばかりになり、すぐに樹齢を重ねた林の中へと入ってゆく。
斜めに差し込む光がなんともいえない良い雰囲気を作っているが、さきほどの上之社の真っ青な空を撮影したのと同じ快晴晴天の午前中、それも間もなく昼食時にさしかかっている頃合いなのである。
まるで深山の人知れぬ古社めぐりでもしているよう。だがここは洛中でこそないにせよ、この山のわずか数百メートル西側は京都府京都市伏見区の街なかである。
京都という街は、塀ひとつ越えたら街路の喧噪も見事に消え失せる魔力を備えた街だが、まさかここまで見事な異世界を作り出せるとはオドロキである。
鳥居も突然のようにめっきり数が減る。
《その一》で書いた下世話な話を蒸し返すようだが、やはり表玄関というか西側の総門から離れれば離れるほど寄贈者の人気が無くなるのか、それとも設置するのに手間賃が高くつくのか、はたまた昼なお薄暗い山間部の谷間で訪れる人が少ないと思われるからなのかは判らないが、表側のひしめくように立ち並ぶ鳥居ゲートとは対照的に、根元だけを残して再建されないままの失われた鳥居が増えてきて、ずいぶんと見通しがよくなってくる。
しかし見通しが良くなって、今まで鳥居の狭いスキマから見ようとしない限り見えなかった周りの山の原生林的な実態が突然迫ってくる。
さらに進むほどに生い茂る樹々も密度を増してゆくので、ますますあたりは薄暗くなってゆく。
しかもこの道、上之社からの単なる下り道や帰り道などではなく、むしろ登ってきた時よりも個性的なお社が多くあるので、時間と体力が許せばぜひ縦断コースにチャレンジしていただきたいと思う。
筆者にしてみればここからがワンダーランドだ。