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しじょうどおりおうだん そのに
 想像通り、少し歩くともう広い道になり、交通量も増えてくる。
『熱帯魚』という看板に魅かれて立ち寄ると、いまは無くなってしまったいきつけの店ソックリな構えと品揃えで嬉しかったのだが、その熱帯ジャングルそのものの温湿度に5分と店内にいられなかった。
 ホントは写真も数枚撮ってたつもりだったが、あとで見ると一枚もなかった。どうやら熱から逃げ出したに等しかったようだ。

 さらにゆくと小さな川に出た。さきの梅宮神社もそうだが、すでに『歩く地図の本』の掲載エリアからは完全に外れている。したがってプリントアウトしたGoogleマップのみを頼りに歩く…といっても、道自体は直線なので、なにかめぼしいものはないか…という手がかり程度だが。

 ふとプリントアウトした地図を見ると、『キムチのほし山』という名前に反応した。筆者は韓国料理が大好きであり、キムチも日本式の漬け物キムチではなく発酵した本物でないといつまでも文句を言うヒトである。
 この店は初耳だったが、じつは京都は結構旨い本格的韓国料理に出逢うことが多い。猪飼野のコリアンタウンは別としても、もしかしたら乱発気味の大阪よりずっとアタリの確率も高いのではないか。
 ちょうど昼時だったのと、歩いて火照った身体にはやはりネンミョン(韓国冷麺)が嬉しいということで試してみたら、これが大正解で。
 スープも素晴らしかった。そんじょそこらの焼き肉屋ではこうはいかない。別につけられた具はキムチと牛のすね肉。これの出しと水キムチが冷麺のスープの根幹になっている。
 お店のメニューとしては他にピビンネンミョンやカルクッス(浅蜊のスープで食べる韓国式うどん。唐辛子が入らないので苦手な人にも安心)やキムパップ(韓国式海苔巻き、飯が酢ではなくごま油風味)があった。

 最後に五味子茶(おみじゃちゃ)が出たが、筆者が知っているものより数段香りも高く美味である。これも店内で売っているのだが、店頭で売っている総菜関係はテイクアウトのみ。
 だがこれがまたあなどれない。
 買って帰った白菜キムチ、水キムチ、ジョン(いわゆるチヂミ)類は「もっと買っとけば良かった」と悔やんだほどだった。
 次回はここを目的のひとつとして目指すことにした。

 あとで知ったが、実はけっこう有名な店らしい。しかしその時おられた日本人男性店員さんより筆者の方がはるかに知識が豊富だったのだが、どうやら店内で料理をこしらえておられたアジュンマ(おばちゃん)が韓国の人だったようだ。ネットでも買える…というより、ネットで全国的に知られているらしいのでありがたいが、やはりこの冷麺は直で食べたいし、総菜はネット販売もないので行くしかない。

 一般的な白菜キムチもすばらしいが、筆者的オススメは頑丈なパウチ入りの水キムチ。これはコリアンタウンでも夏場しかお目にかかれないので、年中取り扱っているのが嬉しい。
 『キムチのほし山』HP→■■■


 えんえんまっすぐ歩いても良いのだが、以前誰かに教わったとあるスポットのことを思い出したので桂川に沿って南下してみることにした。
 川沿いの土手の道なりにゆくと、やがて左手に『八つ橋庵とししゅうやかた』というビルが見えてくる。

『八つ橋庵かけはし(http://yatuhasian.jp/)』という八つ橋のメーカーが、和刺繍の銘品ばかりを集めてなんと無料で展示されているという、なんとも豪儀な私設美術館なのである。
 一階は京都によくあるお土産センター風なのだが、予約しておけば和菓子や八つ橋などを作る体験ができるし、外国人に限らず結構人気があるようだ。───そして
二階がまるまる『京ししゅう美術館』となっている。
 失礼ながら、一階の雰囲気から察するといわゆる自己満足的“なんちゃって美術館”かと思いきや、これがそんじょそこらのギャラリーなど足下にも及ばない高いレベルの美術鑑賞スペースなのである。
 下は2階エントランスフロア。入り口にマスコットの舞妓さん人形が可愛く迎えてくれるのは愛嬌である。

 これまた失礼ながら、あいにく公式ホームページのムービーでもまったくこのスケール感は伝わらない。
 そんなわけで勝手ながらアプローチを変えて少しだけ掲載させて頂くが、絹糸の妖しくも艶やかな輝き、ときに流れ、ときにうねり、ときに渦巻く水の流れのような生命感は、筆者の写真ごときでは伝えようもない。
 なぜなら和刺繍というのは、帯や和服でご覧になったことがあるように、光の加減、距離、角度によって無限の表情を見せてくれる“活きた”工芸芸術なので、たとえハイビジョンだろうがブルーレイだろうが、実際にその眼でご覧になる経験には到底及ばないからだ。
 当たり前だが、刺繍というのは色糸を一本一本、手作業で丁寧に丁寧に差してゆく気の遠くなるような作業である。いわば、カラー印刷やパソコン画面のドットをひとつひとつ手で打ち込んでゆくようなものだ。しかも日本刺繍の場合は、フランス刺繍などに比べて格段に糸も細いため、小さな面ひとつを色で埋めるにも、その手間は倍になることになる。
 ましてこの大きさ。展示品のほとんどがこのクラスのグレードであり、大きさである。ありがたいことに柵もなければガラス戸もない。展示場は奥行きもあるので、離れてマクロに眺めて良し、間近によってミクロに検分して良しというダイナミックな楽しみ方で様々に堪能できる。
 ちなみに、彼女が覗き込んでいるあたりの部分アップはここをクリック→■■■で別ページが開いて見ていただける。

 下手な写真だが、もう少しだけお付き合い願おう。日本刺繍が得意とする色表現に『金色』がある。ただでさえ光沢がある絹糸に、細く細く裂いた金箔を撚り込んで作られる金糸は、絹糸にさらなる表情を与える。
 下の咲き誇る八重桜の背景は、一般的な屏風絵だとモチーフ的には金箔か金泥を用いるわけだが、ここではまさに水の淵を思わせる大いなるうねりをもって金糸刺繍が全面を埋め尽くしている。

 均等に光源が当てられないことが幸いして、かえって立体感がお解りいただけるのではないだろうか。
 金糸の輝きの多様性は、いかなる日本絵の画材も及ばない立体的な輝きを放つ。当然、信じられないほどの物量であることは疑いようもない。と同時に、桜の幹のボリュームにも注目されたい。
 これは下にアンコを入れてわずかに土台から膨らせているだけではなく、あきらかに“桜”ならではの樹皮の質感を刺繍で再現しているのである。しかも、実際の桜の樹皮の玉虫のような独特の輝きそのままだ。これには桜マニアの筆者は腰を抜かさんばかりに驚いた。
 他の客が全体をチラと眺めて「綺麗ねえ」と眼を細めて過ぎる前で、筆者だけが幹の部分を嘗めるようにして見入っていたのはかなり異常に映ったことだろう。
 先ほどからヤイノヤイノと書いている“立体感”を少しでも感じていただけるだろうか?上の斜め右からアップで撮影した画像はここをクリック→■■■ で別ページが開いてご覧頂ける。

 最後にもう一枚だけご紹介してから次へ向かおう。


 写真では細かさ程度しか伝わらないと思うが、実際のこの作品、岩の黒とサインの赤以外は白だけしか使っていず、高原と観る角度で波濤が浮き上がっているのだと申し上げたら果たして信じていただけるだろうか。

 この作品だけはわざと証明を暖色と寒色、それぞれ異なった角度から時間をおいて交互に当てる仕掛になっているのだが、見つめているとこの波に呑まれそうな錯覚すら覚える大迫力である。
 和服に少なからず興味のある女性はもちろん、絵やものの表現に興味があるなら男性といえどもぜひ行かれるとよい。なにがしかの心の収穫を得られるのではないだろうか。こう書くとけちくさいが、これほどの感動を与えてくれる美術の数々をゆったりと、しかも無料で間近で見られる美術館は、そうない。

▼京ししゅう美術館付近の地図はこちらから▼