『ぶら旅』トップページへはまたはこちらから→ ■■■/*TOMZONE-S SHOWメインブログはこちら→■■■


しじょうどおりおうだん そのよん
 河原町から八坂さんを目指して四條通りを歩いていて、錦小路に寄り道しないのはありえない。夕暮れ時の市場はどこでも賑わうものだが、ここは年がら年中、四六時中賑わっている。いや、賑わっているどころか大混雑である。

 錦小路は『錦市場』として別ページで紹介しているのだが、実はそっちのページでは、筆者が毎回まっしぐらに目指す三軒の店に関してはまったく触れていない。
 うち二軒は全国的にも有名すぎるので今さら載せるのも『ぶら旅』的にはちょっとシャクなのだが、ファンである上に四條通りの顔の一つである以上やはり載せないわけに行かない。
 まずは、京都ファンなら知らない人はいない『打田のつけもの』と向かいの『佃煮の千波』である。


 もちろん実際に買って帰って食べるのが一番の楽しみなのだが、『打田』さんの場合は店いっぱいに彩り豊かに並べられた漬け物たちは外国人でなくとも「わんだほー」で楽しい光景である。
 京漬け物と言えばまず思い浮かぶのは千枚漬け、すぐきに壬生菜(みぶな)に賀茂茄子や堀川ごぼうなどの京野菜を使ったものが代表格だが、こちらはいつ訪れてもなんらかの“新作”や季節商品にお目にかかれる。
 関西で言うところの「よお勉強してはる」お店の一つである。つまり、現状に満足せず、常に新たな商品や切り口を模索し続けているからこその今の構えなのだと思うし、有名店にもかかわらず筆者が褒める所以である。

 こちらの『千波』さんも同様で、“お常(つね)”の品物の味や品質が安定していることも勿論だが、筍や菜の花、きゃらぶきなど季節ならではの商品や、やはり新作と出逢える楽しみもあるのである。
 佃煮屋さんなので見た目の色は褐色ばかりだが、こちらは品物の名前を観ただけでクチの中に香りと味がワーッと拡がってくる魔力を備えている。
「これ、アツアツのご飯に載せて食べたらたまらんやろなあ」「熱燗でキュッと…」などと、左党にもたまらない誘惑でいっぱいなのである。
 筆者のオススメは打田さんでは『酒どろぼう』『水茄子』『きざみすぐき(季節商品)』千波さんでは『葉唐辛子』『おやじ泣かせ』そして『ちりめん山椒』だ。
 いつも客で一杯で忙しそうだが、商品について訊ねると笑顔で説明してくれる。他の客に邪魔にならない程度なら、そんなやりとりも楽しい。
 筆者が目指すもう一軒は『麩房(ふふさ)老舗』。錦天満宮から入って数件目にある、生麩と生湯葉の専門店である。すぐそばに湯葉だけの専門店があるのでまぎらわしいが、筆者のオススメは断然こちら。
 店の真ん中にデンとしつらえられた上面開放型の冷蔵庫に並べられた各種京風生麩と生湯葉を観ただけで筆者は飛びつきそうになってしまう。 
 生チョコ、生キャラメルなどなんでも“生”とつけば客が引っ張れる世の中だが、いわば“生”であることの本当の貴重さの元祖がこの生麩と生湯葉ではないだろうか。
 
 『麩房(ふふさ)老舗』
のメインは生麩だが、筆者オススメはなんといっても酒のアテである生湯葉の方である。冷蔵庫のドンツキにパック入り豆腐様のものが並んでいるのがお分かりだろうか。
 左から『京生ゆば』『汲み上げゆば』『つまみゆば』『さしみゆば』。1パック¥840は一瞬腰が引けるが、掛け値なしに空気も入らずにびっしりと入っているので実はかなりお得である。
 それぞれ何が違うのかと店の方に訊ねると、要は食感の違いですよ、との答え。
 間違っていたら申し訳ないが、筆者の貧弱な記憶に因れば『汲み上げ』がゲル状でもっとも柔らかく、『さしみ』『京生ゆば』がいわゆる板膜状の姿でそれなりにしっかりとした食感のものだったはずだ。
 あいにく保存料も何も使っていないので冷蔵庫で二日ほどしか保たないが、たしかこのうちいくつかは冷凍保存も可能だと仰ったと思うので、購入の際にはご確認を。

 筆者は上質のわさび少量と、これまたとっておきの良質の醤油をすこ〜しだけつけていただく。
 できれば生醤油よりもだし醤油を薄くのばしたもののほうが、湯葉の深い甘みが口に拡がってそのあとに飲む酒とケンカしなくて良いと思う。


 ほかにも特徴的と言えるのが商店街の中にけっこう点在する魚屋さん。これが錦小路の特色だと思うのだが、いわゆる海の魚よりも琵琶湖の産物を扱っている店が多い。

 つまり各種サイズの鮎やモロコ、ワカサギの塩焼きや唐揚げ、佃煮などである。ほかにもタニシや小エビ、鮒寿司など、日本一の淡水湖の恩恵とはかくも素晴らしいものだということが実感できる。

 なんとしても身勝手な釣り遊びのためだけに放流されたにっくきブラックバスやブルーギルを完全根絶しなければ、これら先祖たちから受け継がれた日本伝統の恵みはすべて消えることになるのである。
 おなじく、穴子や鰻の八幡巻きもいかにも京都の市場ならではという風情である。


 市場を抜け、いよいよ四条河原町。もう、通りはヒト、ひと、人でいっぱいだ。
 スタート時に桂川を越えたが、こんどは鴨川を越える。もうこの辺は自分の速度は保てない。ひたすら、人の波に乗ってのたりのたりと行くしかない。ひとすじ北へ上ルか、南へ下ルかすればウソのようにスムーズに移動できるのだが、ここで横道に逸れては四條横断にならないのでいらちの虫を押さえ込んでジッと我慢する。

 橋を渡って、四条川端は京都南座。
 これを撮影した時はもう、暮れの恒例、顔見世興行までふた月と迫った頃である。

 南座から一力茶屋のあるあたりまで、京都ならではのセンスの粋でお洒落な店が並ぶ。
 あの雰囲気にエエ歳をしたオッサンでさえときめくのは、筆者が広告デザインを生業にしているからというだけではないだろう。
 しかし最近は撮影マナーの悪い観光客のせいで、お座敷に呼ばれた舞妓さんや芸妓さん(もちろん本物の)がこのあたりを通られる際に、いきなりカメラを向けてのフラッシュの嵐を浴びせたり、無理な撮影のためにとおせんぼ状態にされたりして、迷惑することが多いと聞く。そのため、町内会の有志によるガードマンも巡回されているそうだ。
 この記事を読まれた方は、ぜひお行儀の良い“舞妓さん見物”にご理解とご協力を願いたい。


 そしてようやく、終点・八坂神社。18時44分、松尾駅出発が11時40分だったのでちょうど7時間。散歩にしては少々長めであったか。
 意外なほど真っ暗な境内に提灯の明かりが優しく幽玄な空間を作っていた。それにしても昼間はもちろん、筆者が知っている観光シーズンの八坂さんとはずいぶん雰囲気が違っている。これが桜や楓の季節だったら行き交う大勢の人が沿道にあふれかえり、毎日が縁日状態といっても過言ではないのである。
 そんな賑やかな八坂さんしか知らなかったので、こんな異空間のような風景はその場に居てさえも、とても八坂さんだとは信じられない。
 この日は夜店も出ていなかったからかも知れないが、闇の濃さが違うような気さえする。そんな中、唯一と言っていい灯りが点るのは、並みの社寺なら境内丸ごとすっぽり収まってしまいそうな大きな大きな社務所。
 そんな中を多くのカップルがお守りやおみくじを買っていた。

 最後に、八坂神社西楼門から四條通りを望む。ちなみに、この四條通り横断『その一』の最初の写真は別の日の昼間に同じアングルで、狛犬を写し込んで撮ったものだ。

 ところで、この年2008年の10月19日から京阪電車では『丸太町』『四条』『五条』の各駅をそれぞれ『神宮丸太町』『祇園四条』『清水五条』と変えた。
 京阪電車が地下に潜ったときもそうだったが、感覚的に慣れるまでまたヒマが掛かりそうだ。

▼錦小路〜八坂神社付近の地図はこちらから▼