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 上は月鉾の車輪取り付け直前の風景。なんと美しい姿だろうか。洗練された機能美を感じる。
 このあと、左に見える車軸にはめ込む作業が始まるのだが、人通りが多くて同じ場所で待ち続ける事は困難だったため、諦めてひとすじ、南へ“下がって”みた。
 というわけで、特集の最後は、函谷鉾(かんこぼこ)の鉾立───それも仕上げの風景である。


 絨毯をぶらさげる、という行為を試した事がある人は少ないと思うが、丸めたものなら担いだ事くらいはあるだろうし、その意外なまでの重さに驚いたはずだ。それをさらに緋毛せんで縁取り、垂れ幕として四方を飾るには、炎天下の中、上と下で呼吸を合わせながら引っ張り上げて行くのである。
 骨組みを組み上げるのもひと苦労だが、最後の飾り付けもかなりの重労働だ。もちろん、すべてが文化財なので下手に扱ったりしてウカツに傷を付けるわけにはいかないから気も使う。神経をすり減らす作業でもある。

 函谷鉾の脚まわり。超複雑で特徴ある縄の結び方、結び切りの仕方がよく分かる。また、つり下げられた絨毯の裏側も見て取れる。しかも、この至近距離!迫力!!やはり、鉾立は本番より何倍も面白い。

 こちらは最も有名な『長刀鉾(なぎなたぼこ)』。やはり晴れていたほうがうんと絵になる。
 ペルシャなど中東アジアにおける絨毯は、敷物であると同時に壁飾りであり、また膨大な時間と労力を費やして生み出される文化の産物、そして貴重な財産である。
 日本に渡ってきたこの美しい織物を目にし、最初にこれを山鉾に飾ろうと考えたアイデアマンはどんな人だったのだろうか。きっと大枚はたいて買い求めたのもそういう人だっただろうが、自分だけの財産などとケチな考えにとらわれず、誰もの目に触れるようにと山鉾に使うために寄付した、いわば“宣伝費”に使ったこと自体が懐の大きさを物語っている。

 筆者の住む街にも祭はある。祇園祭と同じ、7月17日だ。しかし、祇園祭ほどではないにせよ、その祭の御神体である神社の発祥は太平記の昔に遡るから歴史だけはそれなりに古いが、“まつり”という言葉で行われているものは単なるイベント、遊びとなにも変わらない。
 哀しいかな、年長者から若者へ伝統も意味も伝えられてないからだ。
 かくいう筆者も、土地の歴史はあくまで地史としてのちに好奇心ゆえに文献から学んだ事であり、土地の人から聞いた事は一度もなかった。これは祭ではあっても『祀り』ではない。

 京都には、祀りが活きている。一年365日、家々に、街角に祀りが活きているから、京の都は世界に冠たる日本の魂でいられるのだ。

 祇園祭。ここに京都の夏は、始まる。

 この撮影日は2009年7月12日。祇園祭は曜日ではなく、同じ日に行われるから鉾立のタイミングは天候次第だが、だいたいこの日にご覧のようなフィニッシュに近い状態となる。だから運がよければ、これら文字通りの『鉾立』にお目にかかれるわけだ。

 *最後に、撮影の際ご協力いただいた各鉾町の皆様に心からお礼申し上げます。

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