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 阪急京都線・長岡天神駅から西へ200mほど歩くだけで、すぐに石造りの大きな鳥居が見えてくる。
 が、初めて見た時、奇妙な違和感を覚えた。
 その時はその理由が解らなかったが、こうして撮影した写真をまとめていてようやく気がついた。背景が “空” なのだ。そう、神社につきものの、“鎮守の森” とか、樹齢何百年とかの巨木がない。
 そこまで仰々しくないにしても、たいてい植え込みや生垣、板塀なり、鳥居の左右には何かあっても良さそうなものだが、ここのは石段を昇った上にあるためか、まるで立ちはだかる巨人のモニュメントのような雄々しさで、仁王立ちに立っている。

 おかげでじつに開放的で新鮮だ。およそ一般的な神社に特有の、籠もるような雰囲気がどこにもない。

 それもそのはず、このお宮さんは、鳥居をくぐるとすぐ目の前に『八条ヶ池』という、南北に長い馬刀貝(まてがい)のような形の大きな池が拡がっているのだ。
 約100m弱の参道がその池のほぼ真ん中を貫いて渡るようになっていて、本殿はさらに奥に配置してあるために、視界のほとんどが池で占められるほど広々している。


 時間はまだ11時にもなっていなかったと思うが、参道にも、池の周りにも本当にほとんど人ッ気がない。実に静かである。その池の畔(ほとり)はというと、驚くほど紅く染まった樹々が美しい。
 カエデもあるが、これらのほとんどは桜である。春はさぞ見事な眺めに違いない。


 実は、長岡天神の『シーズン』は春、4月下旬である。
 名物は樹齢150年と言われる、血のように赤い花の咲く霧島ツツジ。───といっても、見上げるような巨木というわけではない。上の写真の左右の灯篭を飾っているのがそれだ。これが参道に沿って生垣として仕立てられ、70mの長さに渡って植えられているのである。まさにシーズンには、この間を通って本殿へと向かう、という趣向だ。

 しかしこれが満開の時は、凄まじいばかりにどぎつい深紅色の絵の具をたっぷり使って塗りつぶした巨大な枕か、または何かとてつもない怪物が横たわっているかのような不思議な風景となる。

 ───などと知った風な描き方をしているが、あいにく、ここの霧島ツツジは有名らしく、花盛りのシーズンにはけっこうな人出もあって相当混み合うらしいと聞いているので、筆者は怖じ気づいてしまって写真でしか見たことがない。

 その頃の記事は余所でググって戴くとして、『ぶら旅』は『ぶら旅』らしく、あまりヒトサマが行かないところ、行かない頃に足を運ぶアマノジャクさに面白味があるのである。

 そして、ご覧のようにツツジも種類によっては紅葉する。園芸をされてる方ならご存じだが、あのブルーベリーもツツジ科であり、紅葉するのだ。
 この霧島ツツジもこの日、11月21日の時点でかなり暗紅色に染まり始めている。ただし、この名物の参道はシーズンの時のみ通り抜けることができるらしく、普段は保護のために通せんぼになっている。
 石段は真新しいので、昔は普通に通れたのかも知れない。まあしかし、植物のためにはこの方がよろしい。

 同時に、この池には木道のようにしつらえた、立派な回廊型の橋が架かっていて、説明盤によると、檜(ひのき)造りで全長は273.8mもあるらしい。
 ボーッと池の上を渡る風を感じながらうろうろしていると妙に落ち着く。ベビーカーを押しながらの若夫婦や、孫連れのおじいちゃん・おばあちゃんも訪れている。地元の人々のよい散歩道になっているようだ。

 しかしこの橋は南北に架かっている上に北端は公園に繋がっているものの、西にある本殿とは90度異なる方角なので、拝殿へ行くには結局、入り口へ戻るしかない。
 誰もいなければ、けっこう幅もあるしゆったりした雰囲気だが、シーズンで人が多い時となればそうもいくまい。行き交う人で混雑するのが目に見えるようである。

 とはいえ、広い風景の中、せっかく良い天気だし誰もいないので、橋の北側の終端まで歩いてみることにする。
 筆者は、歩いて行ける安全な道があって、時間に余裕があるなら必ずトコトン行ってみるのが大好きだ。
 思いがけなく美しい風景を見つけることができてトクをした気分になれる事が多いからである。


 折角なので順路に沿ってキョロキョロと見廻していたが、失礼ながら、あんまり感じるものがないなあと思ったら、平成19年にできたばかりとのこと。石や草木というのは正直である。馴染んでないというか、置いただけ、植えただけという印象だった。

 橋を後にして順路に沿って歩いて行くと、色づきはじめた楓の並木と石畳、石段。ようやく、神社らしい雰囲気になってくる。

 奉納ちょうちんの列に迎えられながら、ゆるやかな石段を登って行くと、『錦景苑』と額を掲げた庭園に出る。
 見学するのに別料金も要らないらしい。庭と聞いて花好き・庭木好きとしては立ち寄らずにはいられない。


 そこを通り抜けて石段を少し上がると本殿正面に出る。先にも述べたように、おりしも撮影した日は11月21日。本殿に近付くにつれて、七五三の親子&孫連れで賑わう。───まあ、賑わう、といっても洛中の大神宮のように遊園地風の落ち着きのない騒々しい混雑ではない。ほのぼのとした雰囲気の残る、いい感じの賑わい方だ。

 本来ならここで本殿の社格やらを記載すべきなのだろうが、不信心な筆者はお参りも早々に切り上げて(もしかしたらきちんと参らなかったかも知れない)、道を西に採る。
 実はここを基点にして、西山・長岡京巡りをしようというのが今回の目的なのである。
 本殿の西側にある長岡公園を抜けて、次に向かうのは、長岡天神からやや距離が長めに位置する『柳谷観音・楊谷寺(やなぎだにかんのん・ようこくじ)』である。

 だが、そこが実は地図で目測したよりも、遥かに遠い事は、行ってみてから初めて身に染みたのである……ということで、《その弐》へつづく。

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